東京では、長く石原慎太郎が都知事を務めていた。
一方、大阪では横山ノックが知事をしていた時代がある。
知事になったのは、実は横山ノックのほうが早い。
初当選は1995年。そのころ、僕はアメリカに出張していて、週末を挟んで2週間ほど同じ場所に滞在していた。
そんなある日、日本からニュースが飛び込んできた。
「横山ノック、知事に当選」。
その知らせを聞いたとき、一緒に出張していた日本人の同僚が、なんとも言えない表情をした。
口には出さなかったが、「バカじゃないの?」と言いたそうな顔だった。
彼は東京在住の人だった。
大阪では、西川きよしさんが真面目に政治活動をしていたこともあり、「芸人が知事になる」というだけで一概に否定するのは違うのではないか、と思った。
もっとも、ノック知事は2期目の選挙を前に、あの事件で辞職することになるのだから、結果論としては彼の見立てが正しかったとも言えるのだが。
ここで石原知事と横山ノックを並べたのは、政治的な評価をしたいからではない。
1999年、石原慎太郎が東京都知事に当選したころ、横山ノックの強制わいせつ事件が報じられた。ちょうどその頃の話である。
ある日の昼下がり、僕はオフィスに戻る地下鉄に乗っていた。
車内は空いていて、少し大きな声で話すと、離れた席にも会話が聞こえる。
少し離れたところに、中年の男性が二人座っていた。
年齢は当時の僕より少し上くらい。
スーツ姿というより、商店街のおっちゃん、といった風情だ。
話しぶりですぐに大阪の人だとわかった。
「東京はすごいなあ。えっ。
石原慎太郎が都知事やで。
あのイシハラや」
そう言うと、相方がすかさず返した。
「なに言うてんねん。大阪も負けてへんで。
東京がイシハラなら、こっちはセクハラや」
それを聞いて僕は、思わず吹き出しそうになった。
笑いをこらえるのが大変だった。
決して自慢できる話ではない。
それでも、暗い話題さえ笑いに変えてしまう――
そんな大阪のたくましさが、僕はやっぱり好きなのだ。
