壁にいる男
友達には三人の子がいて上の二人が男の子。
両親は下の女の子の結婚の知らせの受けた時は大喜びだった。
家族はハワイでの結婚式を楽しみにその日を待った。
一週間の休みは兄妹にとっても一生忘れられない。
只 長男は時々浮かない妹が気になっていた。
妹の名は明子。初めて好きになった男との結婚と分かっていた。
それにしても何時も明るい妹とは違っていた。何かが違う。
一週間の経つのは早い。
帰りの機内でも益々違和感を覚えた。
夫の弘志に笑いがない。
初対面の時にも挨拶の言葉も言わない。
弟も部屋に入ると言った。
「明子 あいつの何処が良くて結婚する気になったのかな」
そしてまた変な事も言う。
「あの男。何かあるな」
自分も黙っていたが同じだった。
結婚したばかりの妹に聞ける訳がない。
両親達は始終にこやかに話している。
明子はわざとふざけている。何か月か一緒に暮らしていた。
羽田空港に着いて明子と弘志は乗り換え広島行きに乗り換えた。
その時初めて弘志が言う。
「みなさんありがとうございました」
兄弟も一人と親達四人は札幌行きに乗り換えた。
兄方は商売を一週間休んだ。午後二時に家に着いた。店が開いていた。
小さい赤ん坊がいてどうして妻一人で出来たのだろう。
「ただいま」の声に妻は元気な声で「お帰り」と言った。
内心、あの式に妻と子と一緒でなくて良かった。と思った。
明後日は母の日。どんな事があっても帰って来ないと花屋の一年で一番の日。仕入れはとっくに終わらせていた。
商売は忙しい。明子の事も忘れていた。
分厚い封筒が届いた。表には{写真在中}と書いてある。
店は八時。どこの店も早く戸を閉める。
通りはこの店の灯りを消すと暗くなってしまう。
赤ん坊を風呂に入れ食事。妻の料理は美味しい。
赤ん坊もミルクを飲んで眠った。
妻は風呂に入った。その間に封筒を開ける。
見終わりテレビを見ていた。
妻はパジャマに着かえて写真を見た。
その時「きやっ」と言って写真を投げた。
「どうした?」
「気持ち悪い」青い顔で震えている。
「壁を見て! 気持ち悪くない?それに向こうのお父さんも」
壁には異様な顔「良く気付いたな。お母さんに電話するよ」
母もそれに気が付いて全部集めてお寺で焼いてもらうと言う。
「明子は大丈夫かな」
それから二年経って明子は離婚を決めた。
静かな父は明子が帰って来た時は「良く帰ってきたな」
この街では夫の母と二才の連れ子の話を知っていた。
夫は妻の連れ子の男の子に興味を持って結婚したのだ。
母親は知らない訳は無かった。
明子と弘志は小学校の同級生だった。
なにも知らなかった。弘志も義父の事に何も分からず成長してしまった。
明子は兄の街の店の手伝いをしていたが、二年後に結婚した。
今は子の親になっている。幸せな日々を送っている