優しい嘘
あの事件は中学一年生の俺にとって忘れられない。
暑い日でした。
五時間目の体育はグランドでする。
皆は昼食を終わり運動服になり外に出た。
藤岡は朝から腹の調子が悪く先生に言って教室に残った。
食べ合わせかトイレに入っても十分以上もいた。
教室とトイレを行ったり来たりで疲れていた。
少し我慢していると脂汗がでてくる。そんな時教室戻った時のこと
松谷が走って出て行った。トイレに続く廊下は曲がらないと教室は見えない。藤岡の見たのは一瞬だった。
皆は体育を終えてグランドから戻って来た時に一人の生徒が、
「俺の財布がない」と言った。
全員 藤岡を見た。
先生は放課後全員を残した。
全員は藤岡を犯人と決めていた。
但し藤岡は俺が教室に入ったすぐに小さい声で
「松谷グランド離れたか」と聞いた。
「先生に(腹痛でトイレに行きたい)と言って校舎に走って行った」
松谷は一階にトイレがあるのに何故二階にいたのか。
放課後先生は言った。
「チリ紙を出して下さい。机の中に手を入れて折って下さい。盗んだ人はそのチリ紙にお金を入れて、出席簿順にそれを持ってこの箱に入れて下さい」
皆はそのまま帰った。
次の日から藤岡に疑いの眼は向けられた。
しかし藤岡は黙ったままだった。一緒に帰る時は
「松谷の家は子供が多くておまけに家賃を払っているんだ」
「何で知っている」
「お父さんが言っていた。松谷の家ばかりじゃない。誰もが明日は我が身かも知れない」
俺は言った「お前は弱弱しく見えて強いな」
藤岡は笑っていた。
それで俺は考えた。
次の日の昼休み職員室へ行った。
「先生お金のことですが、皆にあれは見つかりました。入れていた所が間違っていましたと言って下さい。いくらか分かりませんが僕がお金を返します」
「ありがとう。放課後 渡そうと作った所なの。早くすれば良かった」
そのプリントを受け取ってもクラスの藤岡を見る眼は変わらなかった。
それでもその後の藤岡の態度は変わらなかった。
「松谷に向けられる眼を反らせてやれたらいい」
俺はその言葉を聞いた時((強くて、優しい奴だ))と感心した。
二年後は高校になり藤岡は難関校を受けそのまま大学に進んだ。
俺は父親の農業を継ぐため高校も大学もその方向へ進んだ。
松谷とはこの街でずっと友達でいる。
藤岡が友達を守ったように・・・。
俺は時々{優しい嘘を着くことがある}
嘘も許されることもある。人を助けるのならば・・・・
藤岡は何時も優しい。何か気高く見える時がある。
友達は良いものだ。