Aコーチ2二人の息子つよぽん

 

何故かおばさんは二人の子供の育て方が違う。

独りには食事も洋服も豊富に与え下の子供にはご飯も一膳だけ。

 

 

小学校の入学の日にも弟は母の妹が連れて行った。

姉妹は仲が悪かったが、余りにも下の子の入学に親が行かない等

聞いたことが無かった。おばさんは頼まれるとお下がりの服を着た

下の子を連れて入学式に行った。

おばさんは、余りにも不憫で大人の意地の張り合いを今日だけは忘れようとしたのだ。

甥と手を繋いで行く間も話し掛けても「うん うん」と言うだけだ。

その子が三年生になって町内の家に泥棒に入った。

その時は父親が引き取りに行った。

帰り道 食堂に入って「好きな物をたべろ」と言われた。

初めて優しい言葉を言われた。嬉しかった。

父親は一言も怒らない。怒って欲しかった。

母親は何故二人に「差」を付けるのか分からなかった。

帰りの道で聞きたかった。

中学を出るまでは上の子と差は続き、下の子の悪さも続いた。

義務教育を終わるのを待って汽車に乗った。

その時も父親が駅まで送ってくれた。

東京行きの切符を買って胴巻きの中から今まで見た事も無い札を

くれた。「大事に使え」と言った。

それからのその子の人生は聴くにも絶えないことばかりだった。

 

 

鳶職になり東京のビルの上で働いた。

十五才で街を出てから一度も戻る事も無く四十年が過ぎていた。

その間に父親は死んだ。

母親は元気に長男と暮らしていた。

長男は仕事の関係で良く酒を呑んだ。

酔って家に帰ると母親に暴力を振るった。

それから間なく長男家族は家を出て再び敷居を跨ぐことは無かった。

母親は独りになった。

それでも元気な母親は近所の人と楽しく暮らしていた。

 

 

五年後の長男の交通事故の話を誰も聞かせなかった。

それどころか東京から連絡が入った。

仕事仲間と喧嘩して二人を刺して負傷させた。その内の一人は病院で死んだ。

監獄に入っていた。身元引受人は母親しかいない。

保護司に相談に行った。[お母さんの代理になる人でもいいです]

妹の所に来た。「姉さんの生んだ子でしょ連れてきて上げて・・」

妹は小学生の入学の日の事を思い出して行った。

年取った母親の替わりに従弟に頼むと言った。

妹の息子は承諾した。

後で留置所から出て来た時には驚いた。と言った。

小さいと思っていた背も高くなり顔も変わっていた。

それから母親はその息子と一緒に暮らしていた。

       リボン 老いた母親を病院へ連れて行く リボン

         パステル息子と母親は手を繋いで行く リボン