手術
最近テレビニュースは残酷な事が多い。
そして今のニュースは数十年前の忘れられない嫌なことを思い出してしまった。
誰にも言っていない。
クラスの集まりに何度も聴いてほしかった。
けれども話せなかった。
必ず笑い話にされるだけだと。
自分独りで心の奥にしまったままで居ようと思って数十年黙っている。
高校卒業して普通に事務の仕事をしていた。
二十一才で腹痛と思って薬を飲んで出勤。
お茶の用意をしていた時我慢の限界。余りの痛さに気を失ってしまった。
救急車で搬送された。
盲腸(虫垂炎)だった。
それが私の人生を替えた。
男を信じられなくなった。ついでに人間も嫌いになった。
何に対しても同じ。
いい事に悪事に対しての反応が早くなった。人の行動も察知する。
気付いたのは救急車の中だった。
そして問診と検査。その間も激痛が続いていた。
漸く病室に入った。
益々痛みが強くなっていた。
点滴が始まった。
点滴の中は痛み止めと眠り薬が入っていたのだろう。
眠りに入った。
暫くして看護婦が来た。
「明日の十時に手術ですからその前に家族の人に来てもらって」
痛みは無くなっていた。
連絡するとすぐ母と姉が入院の用意をして来て就寝の鐘までいてくれた。
「明日。手術前に来るから」
それからは朝からの痛みの疲れで眠った。
九時。手術の用意が始まった。
麻酔も始まった。
その時。
薄らいでいく脳裏に二人の若い男の卑猥な声が聞こえた。
「今日は生きがいい(まな板の鯉どころか、まな板の鯉)だな」
「切り応えがあるな。ハハハ」
げらげら笑う声から逃げられず。
(母さん!たすけて)と云う声は届くわけが無い。麻酔が効いていた。
眼が覚めた時はベットの上にいた。
回診は何度か見た事のある外科の先生だった。
黙ったままで退院した。
盲腸の傷は塞がったが、あの恐怖は残っている。
それでも良い事に時の流れと共に薄らいでいくが・・・。
今、メールが来て二日後に同期会の知らせがあった。
終わり