七重 八重
花は咲けども山吹の
身のひとつだに なきぞ悲しき 太田道灌
太田道灌は永享四年(1432年)~文明十八年(1486年) 五十四才没
室町時代後期の武将で建築家。江戸城築城
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今年も 畑には{やまぶき}の花が黄色く咲いています。
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彼女の名前はユウ子。結婚して子供が生まれると二人の女の子に弥恵・奈奈と名前をつけました。
ユウちゃんとは小学校の入学式の時友達になった。それから和子の家に毎日のように遊びに来た。家が近かかったせいもあった。
和子の家は引き揚げだから家具も何もない。兄妹も多い家だった。ユウちゃんは夕方四時には帰って行く。その時「ここの家はいいな」と言う。 お金持ちで立派な家に住んでいるのに(ユウちゃんは変な事を言うと思った。
そんなある日。「今日 お母さんは都会の病院へ行った。遊んで行かない」これで四回目の誘いだった。始めの時はユウ子ちゃんの部屋で宿題だけして帰った。
今日は誰も居ないので自由に入った。驚くことばかり。立派な置物もあった。畳の上に絨毯も敷いていた。
その向こうを見ると中庭が見える。
その光景は一年前まで住んでいた樺太の自分の住んでいた家の庭と同じだった。
住んだ家は立派な家だった。兄弟はみな自分の部屋があった。そんな大きな家だったのに今は貧しい。
昨日、井戸の側で話していたおばさんの一人が和子を見て言った。
「乞食みたいの子だね」和子はそこから逃げた。
その場では涙は出なかった。
乞食と云われて悲しかった。今になって涙が溢れ出た。
(我慢しないといけない) 父が教えた。
(今にきっと良くなる) と父は言った。
その時、ユウちゃんが戻って来た。
「何泣いているの?」
誰にも言ってない昨日の話しをした。
「大丈夫。心配しなくても誰も思っていないから。」
それから何か想い詰めたように言った。
「私はここの子供ではないの。母さんは小さい時に死んだの。死んだ時にお父さんに、連れられてこの家に来た」
そして続けた。
「私の母さんはお妾さんだった。わかる? 本当の奥さんではなくて二番目。今のおかあさんがお父さんの本当の奥さんなの。
四歳の時に本当の母さんが病気になって、病院に行って帰って来た時は顔に白い布がしていたの」そう言って大きい声で泣いた。
和子も泣きながら言った。「もう言わなくていいよ」二人はまた泣いた。
何度目かに遊びにきた時、ご飯を鍋からお鉢に移すユウちゃんは鍋からわざと床にご飯を落として口に入れた。
すぐ側には着物を着てキセル (金の筒と筒の間に竹が入った15㎝か
20㎝くらいの道具)を持って黙って、ふーと煙を出して その後キセルを横にある箱にぽんぽんと叩く。ずっとそれを繰り返す。何か怖い感じがする。初めて見てユウちゃんのお母さんは一寸変だなと思った。
それは誰にも言ってはいけないような気がいた。
それからもずっと一緒に学校に行った。
高校を卒業した頃 あのお母さんが病気で亡くなった。
それからのお父さんは不憫な娘の言う事を聞いて、お金を自由に使わせた。
その頃からか二人は会わなくなった。
何年後だったろう。手紙が来て結婚して女の子が二人。
名前は奈々と弥恵と名付けたと書いてあった。
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貧しい娘が雨具を貸してくれと言った時に、雨具の簑がないので申しわけないと山吹の枝を差し出した。道灌はその意味がわからず怒って帰った。そしてその歌が後拾遺和歌集の中から引用して娘はその歌を詠んだのだ
{いつの時代も貧富の差のあることには変わりはない}
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