眺めていたものの内容が内容だっただけに
なんとなく大江健三郎の「奇妙な仕事」の雰囲気を思い出した。
 
それにしても、なんで読んでいるんだか分からないけど、読んでいる作品ってのがあって、
それで、なんかの拍子にフと思い出す作品ってのがある。
多分、きまぐれになんとなく読んでいるから、意気込んでないだけに
作家名作品名の印象は薄く、特に記憶してはいないんだけど
作品の雰囲気はインプットしているみたい。
(といっても、しつこいようだけど、「脳」というより、やっぱり肌感?みたいなノリなんだよなあ)
 
そういう作品がけっこうある。
 
あらすじとか、記号とか文章で覚えているんじゃなくて
自分の感じる「色、雰囲気、匂い、空気」とかいった映像(イメージ)で記憶する(分類分けする)癖があるみたいだ。
 
・・・で、インターネットなんていう便利なものがあるから、
だいたい記憶をたどりながら思い当たるキーワードを
とにかく次から次へと検索にかけてればそのうち「これだ!」とヒットしたりする。
 
 

奇妙な仕事 (冒頭部分)
大江健三郎/初出「東京大学新聞」(昭和32・5)
附属病院の前の広い鋪道を時計台へ向って歩いて行くと急に視界の展ける十字路で、
若い街路樹のしなやかな梢の連りの向うに建築中の建物の鉄骨がぎしぎし空に突きたっているあたりから数知れない犬の吠え声が聞えて来た。
の向きが変るたびに犬の声はひどく激しく盛上り、空へひしめきながらのぼって行くようだったり、
遠くで執拗に反響しつづけているようだったりした。

僕は大学への行き帰りにその鋪道を前屈みに歩きながら、十字路へ来るたびに耳を澄した。
僕は心の隅で犬の声を期待していたが、まったく聞えない時もあった。
どちらにしても僕はそれらの声をあげる犬の群れに深い関心を持っていたわけではなかった。
しかし三月の終りに、学校の掲示板でアルバイト募集の広告を見てから、それらの犬の声は濡れた布のようにしっかり僕の躰にまといつき、僕の生活に入りこんで来たのだ。

病院の受附では、そのアルバイト募集については全く関係していないということだった。
僕は守衛にしつこく訊ねて、木造の倉庫が残っていたりする、病院の裏へ入って行った。
その倉庫の一つの前で女子学生と私大生とが、中年の、長靴をはいた顔色の悪い男から説明を受けていた。僕は私大生のうしろに立った。男は僕を瞼の厚い眼で見つめ、軽くうなずいて説明をくりかえした。

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