登場人物
武夫(たけお)…まさるの父ちゃん。当時50歳
〜葬式会場、詰所。武夫(50歳)香典の計算をしながら葬儀当番の仲間と話している。電卓をパチパチやって帳簿につけている〜
武夫「いやーわかんないもんだなぁ…ん、あれだべさ?あれの…いや、正男の娘よ。オラとこの息子の同級生の…優子か…今何してんのさ?…店の手伝いかい…したら安心だわ。」
〜不祝儀袋を開けながら〜
武夫「…コロナな…大分おさまって来たけどもまださ。どこも厳しいわ。コロナでなくても厳しいんだも。若い人たち出てくも。仕事ないっつって…可哀想なもんだ…今何さ?あれやってるんだべ太陽光発電。なんかやんないとって、やったら叩かれて…環境破壊ってな。したけど今もう観光しかないしょや。何を売りにするかだけど、客来ないと何にもならんからって太陽光やったら今度は景観悪くなって余計客が来くなって…なんだかなぁ…」
〜封筒にフッと息を吹きかけて口を開け中のお金を出しながら〜
武夫「(声をひそめて)したら、しばらく店閉めてたの?仲良かったんだべ?夫婦のさ…味も良かったよ。スパゲティカツレツな…コロナの前は忙しかったんでないか?したけどコロナでガクーっと来たもんな…いつ来るかわかんないの待ってて店あけてたってなぁ。」
〜別の不祝儀袋を確認しながら「おっ!」と思わず〜
武夫「ほらぁ。来てるど奥さんの弟さん…5万包んでるわ。やっぱし気にしてんでないか?」
〜帳簿に書こうとして〜
武夫「弟さん、親戚でいいの?親戚な…おっけい…」
〜帳簿につけてから〜
武夫「他の男となー。いやいや奥さんよ…(声をひそめて)どんな男なんだべ?正男だって、ちょっとすっとぼけたところがあったけど憎めないいい奴だよ。
…コロナで景気悪くなって夫婦の中も悪くなってってか?それはないべや…やっぱし酒か?いやー、なんかあったんでないの?…いや…いやわからんけども。夫婦の中はな。」
〜電卓をパチパチやって〜
武夫「あ?なによ…戻って来る前にかい?奥さんにあったの?どこでさ?旭川でか…へ?…なして声かけたのよ(笑って)奥さんびっくりしてなかったかい?なんて声掛けたのよ?へ?(笑って)ここで何してるのもないべや…いやーほんとにかい?いやいやいや悪い事はできないなー。壁に耳ありだな…またなしてそんなとこさいったのさ…兄貴さんのとこさ芋もらいにかい?ふーん…したら、とどのつまりは旭川辺りで同棲してたってことだな…したけど先月正男のとこに戻ってきた…ほー。なんで戻って来たのさ?向こうとなんかあったのかい?不倫相手とさ…わかんないよな。向こうに妻子があったんでないかって?ん…なんかな…自分のことでないからな。他人様の事はわかんないわ…」
〜帳簿に書いて〜
武夫「正男も良く許したな。やっぱし正男の性格だ。でないと戻ってこないわ普通。張り切ってたもな…正男…仏の正男…本当に仏になっちゃった……いやいや、待ってたんだな……待ってたんだ。信じて。裏切られてもさ…なにされても…んー。いやいや…急によ…正男が今来た気がしてな…死んでしまったんだなぁってな。」
〜武夫席を立ち香典返しの御神酒を持って来て「ごっつおになります」と言って開けてくっとやる〜
武夫「いやーそうなって来ると奥さんも気の毒だなぁ。せっかく戻って来たのに…今更向こうに戻れないしな…」
〜御神酒をもう一杯くっとやる〜
武夫「正男も安心して急にきたんだわ…
娘とまた始めたんでしょ?喫茶店よ…スパカツ。いかったいかった…娘戻って来て。あれ?結婚まだかい?したら孫の顔見て温泉でも行ってな…いくらでも未来は明るいも。良いふうにかんがえるべ。盛り上げていかないとな…いる人間でよ…正男も喜んでさ、見守ってるよ。」
〜もう一杯くっとやる。帳簿はある程度纏まって〜
武夫「ちょーっと早すぎたけどな…はい。したら、後はお手伝いの香典だしてよ。ほら、預かって来たのないか…胸ポケット叩けよ。出し忘れ、ほれほれ…」