マタイによる福音

 2・1イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、2言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」3これを聞いて、ヘロデ王は不安を抱いた。エルサレムの人々も皆、同様であった。4王は民の祭司長たちや律法学者たちを皆集めて、メシアはどこに生まれることになっているのかと問いただした。5彼らは言った。「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう書いています。

 

6『ユダの地、ベツレヘムよ、お前はユダの指導者たちの中で決していちばん小さいものではない。お前から指導者が現れ、わたしの民イスラエルの牧者となるからである。』」

 

7そこで、ヘロデは占星術の学者たちをひそかに呼び寄せ、星の現れた時期を確かめた。8そして、「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ。わたしも行って拝もう」と言ってベツレヘムヘ送り出した。9彼らが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。10学者たちはその星を見て喜びにあふれた。11家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。12ところが、「ヘロデのところへ帰るな」と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へ帰って行った。

 

 今日は主の公現をお祝いしています。

 公現祭は、東方教会で、主の降誕、占星術の学者の来訪、洗礼、カナにおける最初の奇跡など、神の顕現を祝う日として始まりました。西方教会では、12月25日の主の降誕祭が成立していたので、公現は主に占星術の学者の来訪を祝うものとして取り入れられました。

 主の公現は異邦の民に神の子イエス・キリストが顕現したことをお祝いします。それで、イエスを礼拝に来た占星術の学者たちの物語が朗読されるのです。

 

 占星術の学者たちはユダヤ人から見れば、異邦人です。旧約聖書では、異邦人とは、「主である神を知らない人々」(異教徒)であると同時に、「神の民の生活にあずからない人々」(異邦人)だとされます。

 

 その彼らが東方で不思議な星の光を見て、その星の光を目当てにして砂漠を越え、エルサレムまで来ました。彼らはその星が「ユダヤ人の王」として子どもが生まれるしるしであるということは知っていましたが、聖書の知識がないために、その子どもが生まれる具体的な場所は分かりませんでした。そこで、当時エルサレムにすんでいたヘロデ大王にその子どもがどこで生まれることになっているかたずねます。

 

 占星術の学者たちの話を聞いたヘロデ王とエルサレムの人々は不安を抱きます。ヘロデ王は自分の地位が奪われるのではないかと思ったことでしょうし、エルサレムの人々はローマ軍との戦いが勃発するかもしれないと思い不安になったのでしょう。

 

 ヘロデ王は祭司長や律法学者を集め旧約聖書を調べさせました。彼らは、その王は「ユダヤのベトレヘム」で生まれることになっているとヘロデ王に報告しました。

 

 ヘロデ王は占星術の学者たちに「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ。私も行って拝もう」といいますが、その子どもを殺そうと企んでいました。

ヘロデ王からの得た情報に基づき、学者たちがベツレヘムに向かうと、星が先立って進み、彼らは母マリアと共におられるイエスを見つけ、ひれ伏して、拝み、「宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げ」ました。

 

 彼らは夢で「ヘロデのところへ帰るな」と告げられたので、ヘロデのところに戻らず、「別な道を通って」彼らの国に帰りました。

 

 ヨセフは、主の天使からヘロデがイエスを殺そうとしているのでエジプトに逃げるように告げられ、起きて、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、ヘロデが死ぬまでそこにいました。

 

 このあと、ヘロデ王は占星術の学者たちにだまされたと知り、ベトレヘムとその周辺一帯の二歳以下の子どもたちを皆殺しにしました。

 

 神の言葉、律法を持っていると誇るユダヤ人たちがイエスを拒絶し、異邦人は星の導きと聖書の助けを受け、イエスを見いだし礼拝しました。

 

 このイエスの誕生物語はイエスの受難と復活物語を先取りしていると見ることができます。主要な登場人物は同じです。この世の支配者、祭司長、律法学者と十字架に付けよと叫ぶエルサレムの人々。十二使徒の一人ユダは、イエスを売り渡し、ペトロはイエスを「知らない」と言いましたが、異邦人の百人隊長や一緒にいた人たちは、「本当に、この人は神の子だった」と信仰告白をします。

 

 私たちは聖書に親しみ、聖書を通して語る神の呼びかけに耳を傾けるよう勧められます。しかし、どれほど聖書に精通していたとしても、イエスの誕生をよろこび、礼拝しないばかりか、殺そうと企んだヘロデと同じ行動を取る危険があると思います。

 

 今、ガザで起こっていることは、かつてイエスがお生まれになった時代にベトレヘムとその一帯で起こったことに似ているように思います。