バレンタインデーに義理チョコを貰わなくなって幾星霜。本命はって?読者の皆さんはその程度にはオトナでしょう。察してくだされ。で、思い出した話。

一代で町場のお菓子屋が年商100億円以上の企業に成長させた社長を知っている。
お菓子と言ってもチョコレート専門で、1970年代からIT化を進め、食品メーカー中ではかなりの利益率をあげていると聞いた。
仕事では数度インタビューを収録に本社へ行った。旧社屋時代から3年前に建った新社屋までで、建物はさほど大きくはないが、「普通に100億円企業になったな」とは感じた。非上場だが無借金経営、社員持ち株制度、年功序列を据えた家族的経営。ここ数年は増収増益とのことだった。新卒説明会には高偏差値大学卒見込者が会場に収まりきらぬほど押し寄せた。それはそうだろう。社長はトシ(確か70過ぎ)だし、次々代あたりの社長がトチ狂って株を上場でもした日にゃあ社員の半分は数千万~億の長者になりうる超優良企業なのだから。
ただ引っかかりはあった。同社のVP制作も手伝った際、社長の武勇伝はたくさん聞かされたが、滅私奉公モーレツ社員の時代では同程度のエピソードは珍しくないこと。
2005年冬頃だったと思うが、インタビュー時の雑談で「ホリエモンはムイチモンになるよ、見てな」と仰っていたり。
取材していて、ワンマン社長だが、功罪のうち経営面の功が多いと思ったのも事実だが、リクルートVP本編中に営業方面が取り上げられていないことから、営業叩き上げの方から、所謂前線での話が聞けなかったことに疑問符がついた。

「家族的経営」「無借金経営」と言うが、費用対効果には普段からうるさい等が社員の方から聞かされたり。
人事で大ナタ振るったり、最側近の言葉を鵜呑みにして自分の眼での確認を怠ったり(詳細は書けないがご想像の通り)。
それが、一昨年デリバティブで大穴をあけて追い証への支援先が見つからず、曲折は経たのだろうが某大手菓子メーカーに(非上場のため額面で)買収された。買収額は時価の数十分の一とか。
一番の相談先が会計士ではなく顧問弁護士だったのがマズかったと聞いたが、それ以前に金融系のブレイン(役員)がいなかったのかと思うし(金融担当の役員があけた穴なのだろうが)。
チョコは原料が国内調達できないため、仕入れ値は外貨相場に左右されるという面もあり、リスクヘッジへと舵を向けるのも無理からぬことだったのだろう。しかし、数年前に創立パーティを取材した際、元日銀総裁や上場企業の代表や著名評論家らが顔を揃えていた。人脈もあったはずだし、無借金だからといって銀行とは軒並み仲が悪いとも考えにくい。
では当の社員はどうしていたのか?
過日、そこの社員とばったり会った。余りにも以前と表情が変わっていないので逆にこっちが驚いた。元社長について聞くと「業績は認めざるを得ないがワンマン社長はどこまでいってもワンマン。結果オーライにせよ人事の粛清や、結局イエスマン側近の言葉しか聞かない。それらが沈殿していった結果だ」とのこと。忸怩たる部分もあったのだろうし、「トップが変わっても安定していればいい」空気が社内に充満していたことに、誰も違和を感じなくなっていたのかもしれない。

結局買収された後はワンマン社長とデリバティブで穴をあけた担当役員はクビになった。小生が買主でもそうするが。

そういえばこの元社長、なぜ株を上場しないのかという問いへの回答を思い出した。
「俺は町場の一チョコレート屋のおやじでいい」
なんのことはない。望んだ通りの人生になったようだ。