幼馴染から聞いた、彼の父の話である。8月の暑い日に急に登校するようにとの連絡を受け、昼頃に虱のわいた頭を掻きながら学校にゆくと、全校児童を並ばせてラジオの玉音放送を聞かされた。担任の先生が泣いている。何があったのかと話を聞いてみると戦争に負けたとのこと。「あ、そう」といった感じで普通に聞いていたそうだ。
間もなく新学期が始まったが、その先生は素面で授業が出来なくなってしまっていた。実直で、曲がったことを許さず、男子には予科練で鍛え一兵卒として天皇陛下のために散ることを叩き込んだ。熱血指導で児童にも父兄にも評判だったとのこと。そんな熱血漢が昼間からベロンベロンに酔っ払って授業の体をなさない授業を行うのである。予科練へ志願することを当然と思っていた幼馴染の父親は「先生がなぜそうなったのか、当時は理由がわからなかった」そうだ。
小生は、その先生にたいして教師としてあるまじき醜態であるなどと批判することはできない。昨日まで皇民教育を推し進めていたのが、今日から民主主義だなどと180度違った指導要領に則れと言うのである。アホらしくてやってられるかと思うのが人情だし、それだけ8月15日以前の指導に絶大な自信と誇りを持っていたのだろう。余談だが、恥ずかしいのは、授業に2時間近く遅刻してくる先生が、いつも一緒に教室へ連れてくる(というより闖入してくる)迎え酒仲間が小生の祖父であったことだ。