最早褒め言葉どころか賛辞にすらなってしまっている、「普通の日本映画」である。多分今年のベストテンには入るだろう。
人生に失敗した元校長先生が家を捨ててとあるアパートへ越してくると、隣には4歳の少女を虐待する母とヒモが住んでいた。見かねた元校長は少女と旅に出る。
誤解を恐れずに言うが、作者は器用ではない。ケレン味を廃し、真摯に作ろうという姿勢が伝わってくる。
監督が自分に厳しくしないと撮れない箇所が目につく。初めて少女が登場する場面で着けている天使の羽根は、一見あざとく見えても、ちゃんと物語構成の上で役割があるアイテムであったり、少女にたいする虐待も映画で見せられる部分と見せられない部分を分ける線引きがきちんと踏まえてあるし。画づくりも対象に突っ込み過ぎないように留意されており、バランスにすぐれている。
と、ここまで書いて、ボディーブローが効いてきた。感情移入できる人物がいないはずなのに、旅の途中での縁日での焼きそばをはねとばす少女に、このようにしか対処できない元校長のもどかしさに、見入ってしまっていたことに気づいた。そして、ハッピーエンドではないと言っているラストの元校長の表情。人生の半ページにも満たない「長い散歩」程度で、今頃施設にいるだろう少女がどうこうなるわけがないし、ヒモは相変わらず母親に暴力を振るっていることだろう。しかし、後悔はしていない。
難を言えば、児童相談所に通報しない必然が描かれておらず、「外せない最低限のリアリティ」がクリアされていないことと、撮影中にシナリオに手を入れることができない(経験がない)ことが本編に出てしまったこと。もちろん、悩み抜いた跡は画面ににじみでているので、斟酌できる。

余談だが、数年ぶりに怒鳴った。育児休業中の知人がノイローゼで子供に手を挙げたことにたいしてだ。そしてお定まりの自己嫌悪。「じゃあお前に何が出来る?」と聞かれても何も出来ないのは痛いほどわかりきっている。流す涙はあるのに。