未必の恋をした(12) | ネヴァーランドのオーガスティーヌ

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ほぼ猫、時々動物やミニ旅あります。歴代のお猫さまも稼働中ですよ。



嘘をつくなら もっと上手について
すぐに透けて見えてしまうアナタの心模様



盛岡に着いて、最初に寄ったのは、岩手出身の誰でも名前は知っている詩人が名づけたという店だった。漆器や民芸品を売っている建物の奥にレトロな石畳を敷き詰めた中庭があり、時代がひとつふたつ巻き戻されたような気になった。白い壁に立てかけられた大きな車輪や緑の葉をつけた細長い木、ベンチも木製で、懐かしいぬくもりがあり心地よい。
「ここのコーヒーとクッキーは有名なのよ」
ぼんやりとベンチに腰掛けて、枝の間からこぼれる日差しを眺めていたサコの横にママさんが座って、奥にある店を指差した。ドアを開けて知っている顔が何人か入って行こうとしていた。
「私はいいです」
給料日前だし、あまり散財したくなかった。
「遠慮しないの、ちゃんとおごるわよ」
ママさんが見透かしたようにサコの肩をトンと叩いて立ち上がった。

コーヒーの香りが立ち込める店内に入って、最初に飛び込んできたのは、カウンターの向こうに飾られている操舵輪だった。幻燈のような青い照明の中でそれを見た時、サコはふと沈没船の内部に紛れ込んでしまったような錯覚に囚われた。
カウンターやテーブル席にいる人たちの会話が、泡のように口からこぼれ出て、天井までゆらゆらと昇っていく。
「クラムボンみたい」
サコは教科書にも載っていた詩人の作品のひとつのシーンを連想した。
水底から上を眺める、上の世界は想像するしかない未知の世界なのだ。
「サコちゃん、詩人みたいだね」
誰かがそう言って、場が小さな笑いに包まれた。サコは真っ赤になって俯いた。
「アイツも初めてココに来た時に、似たようなこと言ったっけ」
シンジがポツリと言った。
サーっと波が退いてゆくように、笑いが止んだ。サコはハッとして、皆を見た。
「え、クラムボンてお菓子か何かですか?」
ミナちゃんが空気を読まずに無邪気に聞いてきた。
ガタンと大きな音。
朱美さんが泣きそうな顔で椅子から立ち上がった。青ざめた、怖い顔にも見える。
「クラムボンは・・・死んでしまったわ。殺されて、死んで・・・しまったの」
椅子が床に倒れる。朱美さんは見向きもせず、外に飛び出していった。
「殺された? 何だよ、それ?」
西ヤンは田口を見た。
田口は黙って首を振る。
「・・・詩の一節にあるのよ。可愛そうに思いだしちゃったのね」
ママさんが落ち着いた声で言い、銀色のライターで、煙草に火を点けた。
「あの、済みません、私」
オロオロしているサコの腕を引いて椅子に座らせて、間宮が頷いた。
「サコちゃんは何も気にしなくていいよ。タイミングが悪かっただけだから。ちょっと様子見てきます」
「お願いね」
間宮の後について、坂上も出て行った。

朱美さんはそのまま戻って来ず、間宮からの電話で新幹線でそのまま帰るというので、送って行くと連絡を受けた。
サコたちは、午後からは牧場に行って、新鮮なソフトクリームを食べたが、嫌に牛乳臭くて食べられなかった。生々しすぎて、気持ち悪くなってしまった。
まるでソフトクリームと同じように、酷く後味の悪い旅になった。


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ちょっと間が空いてしまいましたが、未必の続きです。
なんだかきな臭くなってきておりますw

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