就職先のことで私にとやかく言われた彼は、
「俺は長男だから地元に帰らなければ」というようなコトをしきりに言うようになり、もう私の話を聞かなくなった。


私もやがて諦めた。

よく言われるコトだが、男は1年後しか考えることが出来ない、というのはもしかしたら本当なのかもしれないな。


地元地銀に就職を決めた彼は、残りの大学生活を楽しんでいるように見えた。

私をいろいろな所へ連れて行ってくれた。サークルのみんなとよく深夜ドライブや飲みに行ったりと、まあよく遊んだ。
彼はバイトを増やしたので、夜家を空けることも多くなった。そんな時は私は彼のアパートで一人でのんびり過ごした。自宅から大学に通っていた私には、そんな空間も結構心地よく感じて好きだった。

スケッチブックに書かれた文字は、おそらくこの時に書かれたものだと思う。


内容はおそらくこうだ。


この手紙を見つける頃、あなたも私も何をしているんだろうか?もしかしたら一生見つけることはないのかもしれない。
あなたのした選択は私にとっては納得がいかないけれど、あなたが決めたことなのでできる限り応援して行きたいと思う。そして自分のことを忘れないでいてくれたらうれしい。

…まあ内容としてはこんなものだったんじゃないかな(笑)


「あれを見つけた時は本当にショックだったよ」

と矢田さんは何度も私に言った。


「今になって思うよ。仕事は死ぬほど忙しいし、別にうちの銀行にこだわらなくても良かったんじゃないかって。それに、男ならやっぱり東京で仕事したかったし」

「そっかあ…。でも矢田さんは係長なんでしょ?出世早いじゃない。大学時代にいっぱい勉強した知識が活きてるんだよ」

私はビールを片手に笑った。矢田さんはそんな私を見て苦笑する。