言わずと知れた時代小説の名手、『慶次郎縁側日記』や『深川澪通り木戸番小屋』シリーズの北原亜以子による、明治から戦後にかけての東京駅を舞台にした短編集。

東京駅物語 (文春文庫)

好きな作家は数多いが、北原亜以子は藤沢周平、平岩弓枝、宇江佐真理、澤田ふじ子などと並んで(外れがないという意味で)最も安心して手に取れ、作風の好きな作家のひとりである。

時代の雰囲気をうまく伝え、物語にぐいぐい引き込む筆力は言うに及ばず、この人の作品には独特の優しく「moderate」としか言いようのない雰囲気がある。極端に走ることなく、生き生きとした人物描写や思わずページをめくってしまう物語であり、何より品がある。

この『東京駅物語』はグランドホテル形式で、建築中から戦後の焼け跡の時期に至るまでの東京駅にまつわる物語を収録している。どれも短編であるのがもったいない、十分長編としても面白いだろうにと思わせるものばかりで、人を見つめる優しい視線も健在。

どうも大正から戦後を描いた女性作家の小説には、あまりにメロドラマ的としか言いようのないものが多々見受けられるのだが、この作品はそのようなこともない。もっと読みたい、その後を知りたいと思わせるあたりであとは他の短編にちらっと登場させるだけという登場人物の扱いにもよるのだろうか。それとも、題名通りあくまで主人公は時代の流れを見つめ、さまざまなドラマの舞台となった「東京駅」であり、各短編の登場人物ではないということか。
どちらにせよ、やはり北原亜以子はいいと思わせるものばかりだった。