SoundTesterではMySpeakerというソフトを主に使っていますが、SoundTesterで使えるもう1つのソフトARTAを使って測定してみました。ARTAは英語版のソフトなので少し取っつきにくいところがありますが、CLIOと同じMLS測定ができます。これは実はすごいことです。なぜかと言うと、CLIOと同じ疑似無響室特性が測れるからです。

CLIOは業務用に使える本格的な測定環境装置で、最新版はCLIOfw(FireWire仕様)という製品が出ていますが、価格は測定マイク別で約30万円します。一方、ARTAはシェアウェアで\15,000(金額は為替変動によって変わります)くらいですが、ほとんどの測定は試用版のままで使うことができます。MLS信号を使って測定すると、部屋の暗騒音をある程度除いた疑似無響室特性が測れます。今までCLIOfwを使わないとできなかった疑似無響室特性が、ARTAのおかげで簡単に測れるわけです。

使い勝手は日本語で操作できるMySpeakerのほうが便利ですが、MySpeakerは部屋の中の生活騒音も拾ってしまうので、測定用信号を出している間は声を出したり動き回ったりせず、じっとしていなければなりません(2~5秒くらい)。ARTAを使うときも、うるさくしてはいけませんが、あまり神経質にならなくても良いので多少楽です。

つまり、疑似無響室特性を測りたいときはARTAを使えばCLIOfwがなくてもいいわけで、個人用測定環境としてはかなり高精度な測定環境になります。30万円以上もする測定器を個人で買うのは大変ですが、SoundTesterとARTAなら\59,800ですから、インシュレータやケーブルのようなオーディオ・アクセサリーを買うのと同じような感覚で使えます。

今までは使いやすさ重視でMySpeakerを動かすことが多かったですが、スピーカーの自作や改造にはSoundTesterとARTAを使って特性を測りながら作っていけますので、メーカー品に負けない特性のスピーカーが作れるようになります。

スピーカーを自作しない方でも、前回までの測定ではっきりしたように、スピーカーの設置場所でかなり音が変化しますので、置き場所に制約があったとしてもできるだけ良い特性になる場所を見つけてその位置にスピーカーを置けば、良い特性で鳴ってくれます。

一般に、スピーカーがうまく鳴らないのは、部屋にうまく合う位置にセットする作業を耳だけで聴いて適当な位置に置いているからです。耳は、相対的な差や音色を判別するには良いですが、できるだけフラットな特性になるように追い込むときにはあまりあてになりません。たとえば、耳だけでグライコを調整してフラットになるように調整できるかと言えばまず無理でしょう。部屋の影響で生じる大きなピークやディップは測れば簡単にわかりますから、それらの影響がない位置にセットし、その後に音色を調整すればずっと簡単に良い音にチューニングできます。

スピーカーはどこに置いても音が出てしまうため、つい安易に考えて適当なところに設置してしまいますが、それがかえって良い音から遠ざかることになってしまっていることになかなか気付きません。何かのきっかけで特性を測る機会があれば、目に見える形で状態がわかるので「直そう」という気になりますが、音は目で見えませんから、なかなか気付かないんですね。気付かないまま何年も「いい音が出ない」といってアンプやCDプレーヤーを換えたりするくらいなら、最初から測って調整したほうがよほど良い音への近道と思うのですが、オーディオ評論家の方々もなかなかこういうことは言わないので、どうして言わないんだろう?と思ったりします。

前置きが長くなりましたが、ARTAで測定した周波数特性です。


ARTAによるillusionスピーカーの周波数特性

わかりやすいように、変動幅の上下に色の帯を付けました。中央の横線の上下幅を見ると大体±3~4dBに収まっています。無響室で測るとほぼこれと同じようになるはずです。±3~4dBという特性は、現在販売されているスピーカーの中でもけっこう良いほうです。±5dB以上のスピーカーもけっこうありますので。

ARTAは周波数特性だけでなく、音が出てから少し時間が経ったときの音のようすも見ることができます。ウォーターフォール(Watefall)とか、CSDグラフという図です。


illusionスピーカーのWaterfall(CSD)グラフ

一番上の赤い線が周波数特性と同じものです。そこから手前に向けて時間が経過するとともに、スピーカーから出た音がどう変化するか(減衰するか)を表示しています。理想的には、短い時間で全帯域の振幅が0になるのが良いのですが、そういうスピーカーはまずありません。一般的には、スピーカーのバッフルやサイド面に当たって反射した音や、近くの壁やテーブルなどに当たって反射した音が残響として残るため、このようなグラフになります。一般に、低域は減衰しにくいので時間がたってもまだけっこう残っています。10kHz以上の高域は早い段階できれいに減衰して見えなくなっています。2k~10kHzの間の帯域でけっこう大きな残響が残っています。これがバッフル面などでの反射の影響と思われます。本当にそうかどうかは、バッフル面にフェルトや皮などを貼ってもう一度測り、その差を比較してみればわかります。

このようにして中域の残響レベルが下げられれば余計な音がしなくなりますから、音楽をかけてもあまりうるささを感じない音になります。ツイーター周辺に吸音性の材料を貼っているスピーカーがありますが、それはこのような効果を狙っているからです。音を聴かなくても、目で見て音質を向上させる方法もあることがおわかりいただければ幸いです。

このようなスピーカーのチューニング法があることはあまり知られていないと思います。満足できる音が出ないとついアンプやCDプレーヤーを交換することを考えてしまいますが、まずどういう音がスピーカーから出ているか把握してからでも遅くはないと思います。
ALE P4550ドライバーを使った中音ホーンのインパルスレスポンスです。昨日のウーハーと同じようにトリガーを左端にセットして波形の立ち上がりを見ると、1.542msということになり、マイクから53cmと出ました。測ってみるとホーン開口部から20%くらい中に入ったところでした。これはちょっと出来過ぎです。こういった測定ができなかった時代、ホーンとウーハーの位置合わせは、大体ホーンスロートから8割くらいの位置と言われていました。この話に特に根拠はなさそうです。おそらく経験的にやってみてうまくいったということだと思いますが、たまたまそれに近い結果が出たので信じたくなります。


ALE Tweeter - impulse Response

同じくツイーターの距離も同様に測ってみると、1.701ms = 58.5cmでした。これはツイーターのボイスコイル付近に当たります。そのままではグラフが見にくいので縦軸を拡大して見ていますが、生糸の縦線は大きく立ち上がったところにセットした結果ですが。でも、その前に小さく出ている振動部分に合わせるともっと手前ということになります。そうすると、ツイーターのホーン開口部から20%入ったあたりが音源になるかもしれません。

いずれにしてもあまり精度が取れる測定方法ではありませんので、大雑把に見ておいたほうが良いです。もっと精度良く測るにはやはりCLIOが必要のようです。CLIOだと1cm単位まで位置が特定できますので、ユニットの位置合わせをするにはあったほうが良いです。

ちなみにJBLの4343のように、同じバッフル面にコーンユニットとホーンユニットを取り付けた場合、どう見ても音源位置が合っているとは言えません。できればホーンだけでも箱から出して正しい位置にセットし直せばもっと位相の揃った音になるはずです(見た目は悪くなりますが)。

ARTAはMLS測定ができるのでとても便利で良いのですが、CLIOと比較すると細かい部分で不満が出ます。その1つが距離測定ができないことです。MLS信号を出してインパルス波形を表示させると、波形が中央に表示されるように調整されて表示されます。それは良いのですが、横軸の絶対値が信用できません。つまり、MLS信号が出てからマイクで信号を拾うまでの時間が出ないんです。

これがわかると何がうれしいかと言うと、ユニットからマイクまでの距離が正確にわかると、マルチアンプシステムでユニットごとの位置合わせが正確にできるからです。CLIOはこれができます。しかも正確に。さすが高いソフトは違います。

ARTAでは無理と思っていましたが、良く見ると、MLS波形より前に小さな波が一発出ています(黄色の矢印の波)。どういうわけでこれが出るのかわかりませんが、この波の位置とMLS信号の立ち上がりまでの距離がマイクとユニットの距離を示しているらしいのです(今回はエール音響のウーハーを測りましたのでMLS信号は大きな山型になっています)。そこで、この小さな波を起点として左端に来るように表示し直してみます。



先ほどの小さな波(トリガーと呼びます)の突起部分をグラフの左端に来るように移動させると、ちょうどそこが横軸の0になります。ここから黄色のマーカーを移動して、MLSの立ち上がりまでの距離を見ると、画面下にあるように1.020msになります。ユニットの開口部先端からマイクまでの距離はわかりやすいようにちょうど34cmにしましたので、1msと出れば正解のはずです。結果は1.020msなので、35.088cmとなり、開口部より1cm程度奥に入ったあたりが音源とみなせることになります。

ウーハーはおわん型ですから、音源がどこにあるか特定しにくいですが、このようにユニットから出た信号がマイクに届くまでの距離がわかればその位置を音源と特定することができるわけです。

ただ、この測り方では黄色のマーカーの位置がはっきりここと決められないのが難点です。ウーハーの場合、立ち上がりがゆっくりなので、どこからを立ち上がりと見るかによって黄色のマーカーの位置が変わるからです。横軸をもっと拡大できれば良いのですが、これ以上拡大できないので、この画面のままで立ち上がり位置を決めなければなりません。その辺がちょっと不便ですが、大まかな位置合わせには使えるかと思います。
OminiMic(オムニマイク)という音響測定器を入手して使い始めました。音響測定器としてはCLIOfw(CLIOの最新モデル)がありますが、これは本格的な業務用なので個人で使うには高いです。それにCPUが速くて(2GHz以上)、メモリも充分ないと処理が追い付かなかったりします。

古いノートパソコンでも手軽に使える音響測定器としてはSoundTesterがあります。SoundTesterを使えば大体の特性は測れますが、これには1つ使いにくい点があります。SoundTesterはノートパソコンに内蔵されているサウンド機能を使うのですが、これがたいていの場合高域までフラットに伸びていません。おまけ程度の機能なので「音が出ればいい」程度の特性になっています。ソフトの補正機能を使ってある程度までは補正できるのですが、あまりにも特性が悪いと補正しきれないことがあります。一旦補正データができれば後は便利に使えますが、これがうまくできないと正しい特性が表示されないまま使うことになります。内蔵のサウンド機能は大抵高域が落ちているので、その落ち込み分を見ておいて、表示された特性グラフの表示にその分を足してあげれば良いので、自分だけで使うには大きな支障があるわけではありませんが、測定したグラフを公開するような使い方はできません。内蔵のサウンド機能を使わず、USB経由で外部のサウンド機能を使えば問題なくなりますが、その分装置が大掛かりになりますし、うまく動くまで試行錯誤しないといけなかったりします。

OmniMic(オムニマイク)はユニークな方法で補正データをユーザーが作ったりしなくても正しい特性が簡単に測れるようにできています。しかも安くて持ち運びがとても楽です。何しろマイク本体と付属ケーブル、信号が入ったCD 1枚で全部です。後はそれをつなぐノートパソコンがあればすぐに測れます。ノートパソコンのUSB端子にOmniMicをつなぎ、CDプレーヤーに付属のCDを入れて測定用信号を再生し、測りたいスピーカーから音を出すと結果がグラフになって表示されます。これならPCの操作ができる方なら誰でも簡単に使えると思います。

ただ、OmniMicはアメリカの製品なので、

1.測定用ソフトの表示が全部英語(ソフトのHELPも英語)
2.日本語の解説書がない

点が使いにくいところです。そこで、このソフトの日本語化と使い方の解説書を作りました。これらはうちで独自に作ったものですので、アメリカの販売元に問い合わせても日本語版はありません。現在の英語版ソフトをインストールした後で一部のファイルを日本語対応のものに差し替えれば日本語で使えるようになります。英語版で不都合がない方はアメリカから直接購入していただければ安く済みます。日本語の解説書と日本語対応の測定ソフトで使いたい方はお問い合わせ下さい。英語版のOmniMicとセットでご用意させていただきます。

※なお、日本語対応ソフトは全部を日本語にしたものではなく、不都合がない程度にメニューや画面の英語を日本語に直したものです。