カセットデッキのテープパスについて

アジマスのTEST TAPEで調整してもテープによって音がこもる、走行途中で音がこもる、特定テープのみ音がこもる等の症状でテープパスを弄る必要がありますが、ヘッド周りの調整にはヘッド高さ調整治具・ミラーカセット・アジマスのテストテープが無いと正確な調整は出来ません。デッキメーカーではテープの互換性確保・DOLBYライセンスをクリアーしなければいけない為、特に3ヘッド機は製造工程内でのヘッド高さ調整治具による3次元調整は必須となっておりました。
 
テストテープの使用方法:
テストテープに限らず、自己録音したテープも同様ですが、同じ部分を概ね50回以上再生すると初期値に対し約0.3dB減磁がみられたり、5年以上の保管で自己減磁や転写が起こります。必要以上に再生せず、古いテープは減磁・転写していると考えて使用したほうが良いです。
 
ミラーカセットについて:
90分テープ 12μm、120分テープ 9μmの薄手のテープを推奨します。
薄ければ薄いほど確認が大変シビアになります。
参考:市販されていたミラーカセットのテープ厚み
CQ-018  18μm
CQ-012(MC-112C)12μm
CQ-009 9μm
 
トルクメーター:
以前は株式会社渡辺機器、有限会社ティーメックで取扱っていましたが、現在取扱っているところはありません。

 

量産で使用されるTEST TAPE:
MIXテープと呼ばれ、再生レベル315Hz・テープスピード3KHz・アジマス6.3KHz(8KHz)等の3つの信号が1本のテープに記録されており、テープを再生したまま再生レベル・テープスピード・アジマス調整や確認を行う事が出来ます。バンドパスフィルターをうまく用いる事で3つの調整を短時間で行うことが出来、テープの入れ替え工数を大幅に削減する事が出来ます。ちなみにキャリブレーション機能の付いている一般的なカセットデッキでは8KHzと400HzのMIXテープを作る原理的回路が付いています。
 
写真参考:
テストテープ(アジマス、レベル、テープスピード)、ミラーカセット、トルクメーター
 
基準レベル確認用(A・BEX、TEAC)
 
ラッピングテープ  ヘッドのラッピング用
 
リファレンステープ (BIAS、録音レベル)の調整に使います。
カセットデッキ発売当時の基準テープでなるべく調整したほうが望ましいです。
世代が異なったテープを使用するとレベルやBIASが持ち上がってしまい、調整しきれない場合もあります。
例えば1975年発売のセットで2000年以降発売のテープを使用するとBIASレベルが持ち上がります。
録音して再生すると聴感上は高域が良く出ていて様に聞こえますが10KHzで3dB以上BIASが持ち上がってしまいます。
本来は315Hzと10KHzのレベル差は±0.5dB以下です。
 
世代毎のIECリファレンステープ:
・A・BEX TCC-100A IECⅠ(R723DG 1981年制定) IEC(Prague)1981
・A・BEX TCC-200A IECⅡ(S4592A 1981年制定) IEC(Prague)1981
A・BEX TCC-200C IECⅡ(U564W  1986年改訂)
・SONY DUAD IECⅢ(CS301相当) 
・TDK IECⅣ MJ507A (1991年改訂)

 

磁気テープ録音再生システム第5部 磁気テープの電気的特性

 
カセットデンスケ® *1 TC-D5M 1980年~2004年迄販売やウォークマン®プロフェショナル *2 WM-D6C 1984年~2000年迄発売されたSETでは、数年毎にIECリファレンステープが変わる度に内部定数も変わっています。Dolbyライセンシーによりその当時の特性を満足させる必要があった為です。他社のカセットデッキも世代毎に基準テープが異なります。
 
*1 「カセットデンスケ®及びデンスケ®」はソニー株式会社の登録商標です。
*2 「ウォークマン®及びWALKMAN®」はソニー株式会社の登録商標です。
 
再生ヘッドアジマス調整、録音ヘッドアジマス調整、再生レベル、録音レベル、バイアス、F特確認等に必要不可欠な測定器です。
 
一般的な測定条件:測定条件はJEITA CP-2311(旧)⇒ CP-2316(新)を参照ください。http://www.jeita.or.jp/japanese/standard/book/CP-2316/#page=1
 
正確にアジマス調整を行う為にはアジマステープの出力がL、R共に最大の時にリサージュ波形の位相が90°以内であれば良いのです。L、Rの出力を最大にしてもリサージュ波形が90°以上となる場合にはテープパス調整又はヘッド交換が必要となります。
*デッキメーカーによっては位相が0°(同相)になる様にアジマス調整をおこなう場合もあります。この方法で調整を行った場合、ヘッドギャップのずれがあるヘッドの場合、正確にアジマス調整が出来ません。
 
アジマス調整には精度の高いテストテープを使用する。
各メーカーのテストテープで機械アジマス位置が5~10分(1分は1/60)程度の誤差があります。
Nakamichiはテープに記録される磁気パターンが垂直になる位置を基準とし磁気アジマスと呼んでいます。
 
テストテープを株式会社シグマハイケミカルのA-05Mや、マグネットビュアーMV-95で見ると垂直に記録された磁気アジマス位置を確認する事が出来ます。そもそも機械アジマスを基準としたメーカー製のTEST TAPEではオープンリールでフルトラック録音後、カセットハーフに入れても僅かなバラツキが生じてしまいます。最近では一般の方がアジマスのテストテープを販売されている様ですが、TESTテープ作成用デッキはヘッド高さ調整治具で厳格に調整され、メカシャーシとキャプスタン軸の平行度が正しく出ている事が前提です。フルトラック記録である事や機械アジマスと磁気アジマスの違いを把握され、テープ1本毎にRECヘッドを調整する必要がありますが、ここまでやらないとTEST TAPEとしての精度を出すことは厳しいと思います。
 
Tape Path Alignment Tips
一般的な3ヘッド機をヘッド高さ調整治具(ゲージ)を用いての調整順番を表します。
調整に使う精密ドライバー等は事前にCRT消磁器等にて消磁されている事。
磁気を帯びたドライバーで調整すると録/再ヘッド及び消去ヘッドが帯磁し音がこもったり、クリックノイズが入る事があります。また、キャプスタン軸に磁気を帯びたドライバーが触れるとキャプスタン軸が帯磁し、「チリッチリッ」とノイズがテープに記録されてしまいます。
 
IEC Publication 94 Part 7(Cassette Mechanical Requirements and Dimentions)にて、S側ピンチローラーガイド高さ、録音/再生ヘッドのガイド高さ・あおり・突出し量、消去ヘッド高さ・あおり・突出し量は厳格に位置規定されています。
 
・調整に使用しているメカデッキはソニーのTC-K555ESG以降に搭載されているTCM-200Dです。
 
①S側ピンチローラー高さ調整
S側のピンチローラのテープガイドに治具のバーが抵抗なく入ること。写真は高さが高くて治具のバーが入っていない。これはズレ過ぎ。
 
S側ピンチローラーの高さ調整を行いバーがスムーズに入っているところ。
 
②録/再ヘッドの高さ、あおり調整、突込み(突出し量)、アジマス仮調整
録/再ヘッドのテープガイドに調整治具のバーが抵抗なく入るように高さ調整をおこなう。あおりをペンライト等で確認し、治具のバーとヘッド面に隙間がないこと。アジマスを仮調整する。「高さ、あおり、アジマス」の3次元調整を何回か繰り返し3つの項目を満足すること。最後に突込み(突出し量)を確認(調整)し再度アジマスを仮調整する。
 
録音/再生ヘッドあおり
あおりがずれている様に見えますがヘッドの摩耗です。
 
③消去ヘッドの高さ、あおり調整、突込み(突出し量)調整
ミラーカセットでヘッド高さを確認し上部、下部のヘッド端とテープ端の隙間がほぼ同じか、上部より下部が0.1mm大きくなる様に高さを調整する。イラスト参照。あおりをペンライト等で確認し、治具のバーとヘッド面に隙間がないこと。消去ヘッドにはアジマス調整が無くヘッドが斜めになる事があるので、治具のバーとヘッドの端面の左右にバーを合わせ平行度を合わせる。「高さ、あおり、平行度」3次元調整を何回か繰り返し3つの項目を満足すること。最後に録/再ヘッドのアジマス調整を行う。
NGの場合
*消去ヘッドのあおり調整がずれているとテープが蛇行したり最悪の場合、薄手のテープに折り目や傷等が入る場合があります。
拡大すると良く判ります。
 
OKの場合
消去ヘッドのあおり再調整後 
拡大すると良く判ります。
 
*修理業者様へテープパス調整を依頼される場合、ヘッド高さ調整治具を持っているところに修理依頼をしたほうが良いです。
業者様によってはヘッド高さ調整治具の存在すら知らないところもあり、ミラーカセットのみでテープパス調整を行うところもあります。
Nakamichiのサービスマニュアルを拝見するとヘッド周りの調整は互換性を最重要視している為、全て専用治具でガイド高さやヘッド突出し量を厳格に調整する様になっています。最近のお問い合わせで「治具はどの様にすれば入手出来るのか」と多く相談を受けますが、A・BEXは10年程前に入手出来なくなりました。現在入手可能なのはアメリカWilly Hermann Services社で販売されているWHS-300A 米ドル$225 日本円で約¥23,500。送料及びPaypal手数料、税金、レートにもよりますが*¥33,000位です。 *価格は2018年12月時点です。
 
以下のサイトにてNakamichi専用治具を扱っています。 

 

Willy Hermann Services WHS-300A  材質:アルマイト

1枚の板を押し出し加工している為、寸法の僅かなバラツキが有る様です。
下記、A・BEX2種類の治具は2部品構成の為、寸法精度が高いです。
 
A・BEX 現(ALMEDIO) ヘッド高さ調整治具
左:THG-801C セラミック製とTHG802 サイズ違い(0.1・0.16・0.2mm)のチェックバー3本。
右:THG-801 材質:SUS303。
*治具仕様:IEC Publication 94 Part 7(Cassette Mechanical Requirements and Dimentions)に基づく。 
 
参考:NakamichiのS側ピンチローラーガイド高さ及びヘッド高さ及び突出し量治具。この様な専用治具で厳格に調整されています。http://www.naks.com/gauges/Fixture_DA9051.pdf
 
Information Terminals (ITC)現(Verbatim Corporation) M-300は治具の元祖で1975年頃から各メーカーの開発、製造部門で使用されていた様です。
IEC(Prague)1981で定められた基準テープの規格制定後にテープ走行系の調整バラツキを抑える必要が高まった為、A・BEX 現(ALMEDIO)がSUS303と最初で最後のセラミック治具を発売します。
Nakamichiはその重要性を規格制定前から判っていたため治具を内製化していました。
 
用語の定義
 
磁気ヘッド
ヘッドには録音用、再生用、消去用があり、録音と再生が兼用になったヘッドや録音と再生ヘッドが1つのケースに入ったコンビネーション・ヘッド、録音用、再生用が独立した独立懸架型があります。
 
録音・再生ヘッド
録音・再生ヘッドは周波数特性、再生感度が決まっていますので交換時は同一のものと交換し各特性を満足する必要があります。
 
ヘッドの摩耗の目安はテープ走行によりギャップの深さが浅くなり出力レベルが減衰し、高域でのレベル変動が大きくなった時は摩耗時期です。
 
録/再ヘッド
1個のヘッドで録音と再生を兼用している為、それぞれの最良の特性を1個のヘッドで得るのは難しく、録/再ヘッドの場合は、再生ヘッドの特性を重視しています。
 
録/再コンビネーションヘッド
録音と再生の2種類の特性を持ったヘッドを1つのケース内に組み込んでいます。弱点として録音時に録音ヘッドから再生ヘッドへ録音信号やバイアスの飛び込み、製造時に録音ヘッドと再生ヘッドのアジマスロス(10KHz 1dB程度)があります。
 
独立懸架型ヘッド
録音と再生ヘッドが同じ基台に独立して付いておりアジマス調整が個々に可能。コンビネーションヘッドで起こる様な信号の飛び込みがありません。
音質及び機械的精度に優れたヘッドと言えます。
*ソニーのデッキ・スイスのR社で使用。
 
           下表はヘッドのチャンネル位置を記したもの
2トラックのヘッドにはダミーコアを使用しているものがあります。目的はコアと同じ固さのダミコアを図のように埋め込み、ヘッドコア面以外の片減りを防止し、ヘッドコアの摩耗が均一になるようにする為です。
 
消去ヘッド
テープの信号を消去する目的に使用され、消去方法の種類として永久磁石を使用する方法と高周波電流を流す2つの方法があります。
 
Dolby B NR回路
ソニーはDolby推奨回路のFETを用いずに、特性選別したトランジスタを使用し無調整化とコストダウンを実現し、Dolby同等性能と互換性を保った独自のディスクリート構成を実現しています。当時のDolbyライセンス料が高かった事が背景の様です。
写真の参考回路はTC-4550SD *SDは(SonyDolby)の略。 
東芝でADRESを開発していた片倉雅幸氏がソニーに転じCX174シリーズ、CX20088・CX20087、CX20188・CX20187、CXA1417Sを開発する事となる。
 
 
参考:カセットデッキ関連特許
ノイズリダクション回路
 
カセットテープレコーダー及びカセットテープレコーダーのカセットホルダー
 
テープカセット