山暮らしに適したクルマとは

 

 

当主は『カーキチ』である。

正確には「若いころはカーキチだった」というべきなのだが、還暦間近になったいまでも、カーキチスピリッツそのものは失っていないと自負(?)している。

 

『カーキチ』という表現に問題があるのであれば、『クルマ好き』とぼやかそう。

 

もっとも、自称『クルマ好き』という人は、実は、とあるメーカーないし特定のモデルに執着している場合が多い。

この性向は『クルマ好き』というよりも「◯◯の◯◯が好き」と宣言するのほうが適当で、当主のようにタイヤとエンジンがついてればたいてい好きになってしまう全愛者を『クルマ好き』な人々と同列にするのはなんだか申し訳ない気がするので、ここはやはり当主は『カーキチ』であるとしておくほうが正しいと思うのである。

 

 

…まあ、そんなヨタ話はどうでもよくて。

 

 

 

「特定メーカーの特定モデルへの強い執着」の象徴が『 NISSAN スカイライン』である。スカイラインを愛する人々の根は深い。ルーツは1957年リリースの凡庸としたデザインのセダンだが、1964年の日本グランプリでポルシェ相手に善戦したり、1969年に登場した『ハコスカGT-R(*画像=wiki様出典)』がセダンに高性能エンジンを載っけて「羊の皮をかぶった狼」的な演出をしたりして、スカイラインのフランドそのものが神格化されてきた経緯がある。以降の代々スカイラインはこの成功フォーマットに乗っかるも虚しく凋落の一途をたどるが、そのネームバリューは一定数の妄信的なファンから今日まで支持され続けている

 

 

こちらも「特定メーカーの特定モデルへの強い執着」の対象となるMINI-BMW。英国を代表する不朽の名車『オースティン・ミニ』をオマージュして、2001年、なんとかつての宿敵ドイツのBMWからリリースされた。当主のような還暦じいさんは、モンテカルロラリーで大活躍したオリジナルのミニが身近な存在だったせいでどうもこの手の「もどき」には抵抗感があるのだが、オリジナルを知らない世代にはそんな感慨があるわけでもないし、そもそもオマージュを無視して新しい製品として捉えれば、これはこれで大人のおもちゃっぽくてアリなような気もする。それにしても日本人のMINI-BMWに対する支持は熱い。モデルチェンジを繰り返すたびに巨大化し、もはや『MINI』と名乗るにはムリがありそうだし、プライスも軽く500万円を超える高級車になってしまったにもかかわらず、街には多数の『でかいMINI』が闊歩している


 

 

奥田民生さんが謳っておられるように、クルマは「快適に暮らす道具」である。

また同時に「こんなにも愛している」道具でもある。

 

『カーキチ』の当主にとっても、クルマは愛すべき道具であり、これまでも自身のライフスタイルの変化に合わせて国内外メーカーの様々なモデルと時間を共にしてきた。

 

ここまでの当主の偏執的なクルマ遍歴の羅列はさておいて、山暮らしをするようになってから早くも2台のクルマを乗り継いだので、無意味とわかりつつ両者の比較を試みる。

 

 

 

 

 

 

 

MAZDA CX-8 XD L-Package 2018

 

 

CX-8 は、このところやたらとデザインへのこだわりを押し出すMAZDA社の国内フラグシップSUVで、車格と装備のわりには価格がリーズナブルゆえか街でもよくみかける人気車だ。

7人乗りSUVは積雪時の宿泊客の送迎に活躍するのでは、と、山暮らしスタートのタイミングで3年落ちの中古車を購入した。

2021年当時で乗り出し価格360万円。

 

結論からいうと、このモデルはかなりよくできていて、実用車として『カーキチ』イチオシである。

 

なにより、その巨体にもかかわらず、燃費がやたらといい

市街地から山に向かう間の平均燃費はおよそ15km/L。高速道路を長距離ひた走ればさらに伸びる。

しかも燃料は安価なディーゼルだ。

 

燃料タンク容量が80Lもあるのも特筆で、安いときに満タンにすればしばらく給油しなくとも済む(いつもは半タンね)。

さらに、ディーゼル車特有の面倒な尿素補給も必要ないし、騒音もガソリン車とさほど遜色がなく、さらにエンジンは大トルクで巨体をぐいぐい引っ張る。

 

マジでMAZDAのクリーンディーゼルの技術力にアッパレを献じたい。

さすが、世界で唯一ロータリーエンジンを実用化した機械屋である。

 

もちろん室内空間も十二分で、通常の4名乗車時の場合、後席はゆったり脚が組めるし、ラゲッジスペースも広大だ。

3列目のシートはさすがに+αと割り切ったほうがよいのだが、やれ「天井が低いだ」なんだと文句をつけるのはもはやクレーマーの所業である。

 

ほかにもシートヒーター、ステアリングヒーターなどの快適装備も充実しており、極寒の山暮らしにはぴったりの1台だ。

たしかに巨体を持て余すこともなくはないが、それはポルシェ・カイエンでも同じことである。

 

 

 

 

HONDA N-VAN Style Fun Turbo 2023

 

 

CX-8 はたいそう気に入っていたのだが、より山暮らしに特化したクルマをということで、CX-8 の車検のタイミングでこちらに入れ替えた。

 

当然中古で探したがなかなか出物がなく、あってもそれなりに高価ということで、清水の舞台から飛び降りるつもりで新車に手を出した。

軽貨物バンにもかかわらず、最高グレードは販売価格は200万円を超える。

幸いCX-8 の下取りが230万円だったので、新車を買ってお釣りがくるという、なにやら不思議なことになった。

 

正直、山暮らしは汚れとの闘いだ。

雨がふれば靴裏はどろどろになるし、野良仕事の後は汗や草や枝なんかが体中に付着している。もちろん、虫も多い。

CX-8 はまがりなりにもラグジュアリーカーの仲間なので、そのあたりがどうにも気がかりだった。犬を載せるとあちこちが毛だらけになるのもストレスだ。

その点、軽貨物バンはいらん気兼ねがなくてよい。革靴からサンダルに履き替えた気分だ。

 

N-VAN の優れた点は、なによりもその絶大なる積載能力だ。

リヤシートに加えナビシートも畳めばフロアは真っ平らとなり、定尺の構造合板や2mを超える角材もラクラク積める。これはすごい。

HONDAの開発者によると、N-VAN 開発にあたり積載能力最優先でそのほかは妥協しまくったという。

 

CX-8 も定尺の合板はぎりぎり積める包容力はあったが、積載時に内装に傷がつくのではないかとヒヤヒヤしたものだし、長尺ものはちょいと厳しかった。

汚れた作業着のまま資材や道具類を気兼ねなく放り込めるという点で、N-VAN は山暮らしにぴったりの移動手段といえる。

 

また、4ナンバーの貨物車なので税金が安い。任意保険も当然安い。おそらく、車検費用も安くあがるだろう。

 

反面、イマイチな点も多々あるにはあるのだが、まあ、軽貨物バンだと思えばたいていのことは許せてしまう。

スライドドアがやたら重く思い切り閉めないと半ドアになるとか、これでほんとにターボついてんのかというくらい加速がだるいとか、燃費が CX-8 とさほど変わらない…とかいいはじめると大人げがないのでやめておくことにする。

 

ひとつだけ懸念されるのは、積雪時の走破性能だ。

トラクションコントロールをカットしても、路面状況によってはあっという間にスタックする。

これは豪雪地帯居住者にとってはかなり深刻な問題ではあるのだが、最悪ユンボで救出すればいいや、と、あまり深く考えないようにしている。

 

 

 

…というわけで、還暦間近のかつての『カーキチ』は、現在、軽貨物バンに乗っています。

クルマって、やはり個々のライフスタイルに寄り添ってくれる最高の道具なんですね。