持つべきものは…

 

 

過去の記事において、「入植に適した土地探しとは…」などと、自らのささやかな経験からずいぶんと偉そうな講釈をたれてきた。

…、が、さらに懲りずに指南させていただくと、入植をスムースに進めるためには、速攻で「現地の土建屋さんと仲良くなる」ことを強く推奨する。

 

ご自身がすでに開拓の達人で、装備も技術も知識も経験も万全なのであれば上記の限りではないが、ズブのシロートにとっては、困ったとき、すぐに手を差し伸べてくれるプロの存在が近くにあれば、これ以上に心強いことはない。

 

当主は、ここ余市郡赤井川村に入植するにあたり、いの一番に役場に赴き、「地元の土建屋さん」を紹介してもらった。

人口1,000人強の小さな村にも、規模こそ小さいが、「地元の土建屋さん」が数社存在しており、お隣の余市町までエリアを広げれば、それなりの選択肢があったのは驚きだ。

 

紹介リストの中から自分の直感だけを信じて選びだした土建屋さんと、すでに3年近く懇意なお付き合いをさせてもらっている。

 

 

 

 

「仲良く」とはいっても、もちろん先方は商売だから、お金のやりとりは発生する。

請求額が大都市圏の同業と比較して高いのか安いのか、合見積をとっていないのでそのあたりは不明だ。

 

しかしながら、土建屋さんというのは、仕事柄なにかと地場の事情に明るかったりするので、技術的な支援もさることながら、気候風土や民俗風習、ご近所のややこしい人間関係など、よそ者にとってなかなか知り得ないローカル情報を入手できるのも助かる。

 

なにより、困りごとで電話すれば、その日のうちに顔を出してくれるというフットワークのよさが頼もしい。

 

実際のところ、当地の開拓の初期から必要だった軽トラ、除雪機、ユンボは、仲良くなった土建屋さんが「どこからともなく」中古品を安価に引っ張ってきてくれたもので、それらは現在も元気に稼働中である。

 

さらに、今後導入しようかと思料している耕運機、スノーモービル、クローラー付きATVなども、頼めばなんとかなりそうな気配だ。

 

 

 

 

しかしながら、開拓に臨むにあたり、プロからの指導をすべてを鵜呑みにしてよいわけではない。

 

彼らの感性は主に安全性、収益性、効率性に向けられており、半ば自己実現として苦難に挑む一般人とは志向が異なっている。

彼らの価値観では、重機の直線的な動線の障害となったり建築物の近くに存在する植生全般は「邪魔なもの」として容赦なく排除対象となってしまう。

 

残念ながら、「森をデザインする」というあいまいな感覚は理解されない。

 

もっとも、これまでも、助言を無視して残した樹がその後に致命的な障害物となり結果的に伐採した、などという事案は枚挙にいとまがない。

彼らの指摘はだいたいにおいて正しいのである。

それでも、たとえ結果は同じでも、そこはやはりオーナー自らが考え、痛みを味わったうえで納得して実行するというプロセスは重要だと思うのだ。

 

それが、たとえ非効率であったとしても、だ。

 

 

 

 

…とまあそんなこんなで、今回の説法は、「移住後は速攻で地元の土建屋さんと仲良くしておきましょう」…という趣旨だ。

当主の場合、すぐに有力な土建屋さんとコネクトできたが、これは「運」に違いない。

一方、その後も関係が長続きして、時に商売抜きのお付き合いをしてもらえるのは、先方から一定のリスペクトを得ているからと勝手に思っている。

 

 

やはり、持つべきものは「運」。

そして、なによりも、「自らのアイデンティティをブラさないこと」…が肝要かと、ひとりごちるわけだ。