栄枯盛衰。

 

 

先般のコロナ禍では、人々の密集が制限された結果としてアウトドア・ブームが暴発した。

しかしながら、実際は、その数年前にすでにブームの予兆が顕れていて、そのきっかけとなった世情がいくつか存在すると考える。

 

 

いの一番はSNSの影響だ。

自らの生態を『映える』画像でアピールしたい……的な、かつては恥ずかしい行為であったはずの承認欲求の追求がインスタなどSNSの普及により正当化され、これまでとは明らかに異なる人種がキャンプ場で目立つようになった。

 

ふたつめはギアの大進化である。

これは、たぶん、SNS人口の増加と二人三脚もしくはニワトリタマゴな現象で、安価でオシャレで簡便なギアが市場に溢れた。

キャンプ・デビューのハードルが著しく下がり、新規参入者が増えた、というわけだ。

かくいう当主もこの流れに便乗し、くたびれてきたギアを一新した次第である。いまどきのギヤはほんとによくできている。

しかもホントに安い

 

 

 

 

みっつめは「おひとりさま文化」の流入。

かつてのキャンプといえば、家族や仲間たちと楽しむ集団型アクティビティだったはずだが、今般、誰にじゃまされることなく、マイペースで自分独りだけの世界観を愉しむキャンパーが市民権を得ている。

事実、『ソロキャンプ』という新語がすっかり定着した。

かつて、ひとりで設営しているヒトは、偏屈でガチな山男と決まっていた。ましてや女性のおひとりさまなどもってのほか…である。

 

おしまいは当主の独自意見だが、80年代のキャンプブームのさなかに子供だった世代が親になり、子連れでキャンプ場にもどってきた、という説。

その類の方々は生活に余裕があるとみえ、テント類にお金がかかっているのが特徴だ。

キャンプ場に花咲くテントが、Coleman から Snow Peak に一気に置き換わっていった事象が象徴的である。

 

 

 

 

先述のように、昨今のキャンプ・スタイルの多様化は目覚ましい。

この多様化が行き過ぎると、山林を買って自ら開拓するという奇行が生まれるのだろうか。

 

忘れ去られていた芸人さんが、自身が所有する山林で野営するようすを YouTube などで配信し、さらにこれらがTVのバラエティ番組にピックアップされたりという流れは、コロナ禍以前から始動していたと思う。

そういえば、僻地に暮らす人々をとりあげる番組、『ポツンと一◯家』も息が長い。

 

これらにマジで影響され、『マイ山林』に魅せられてしまった一般人も多いのかもしれない。

 

…いずれにせよ、山林を買って自ら開拓する、という行為自体は、巷間のブームの隆盛とは関係なく、一部の変わり者の間で密かに浸透していたものであることは間違いない。

ただ、それが先般のアウトドア・ブームにより脚光を浴びるようになり、かつてほど珍しいものではなくなったのも事実だろう。

 

実際に、コロナ禍の終息が見えない中、全国各地に個人経営のキャンプ場が乱立した。

これが、長年構想を積み上げてきた末、たまたま開業のタイミングがコロナ禍とカブったのか、はたまたブームを見越しての飛び入り参入なのか、それぞれ事情は違えど、結果的には山林を買って自ら開拓する変わり者が確実に増殖したのは事実である。

 

担い手不足によって林業が衰退し、全国各地の山林が荒廃して社会問題化していることを思えば、変わり者の増殖はよろこばしいことだ。

ただ、それを一過性のマイ・ブームで終わらせることがないように願う。

 

過日の記事にも書いたが、大自然はヒトの手を離れたその瞬間から野生化する。ヘタに構造物を建てると、それが廃墟となり、様態をさらに醜いものにしてしまう。

 

 

 

 

先日のニュースで、Snow Peak社のBMOが発表された。

 

くだんのアウトドア・ブームで急激に業績を伸ばした同社の決算が、前年比-99%という衝撃的な数字で、創業同族が株を買い戻すことによって非上場化を果たすというのだ。

そもそもブーム下の業績自体が異常値だったということは否めないとしても、一般大衆の心の移り変わりの速さには、正直恐怖すら感じる。

 

…とはいうものの、にわかキャンパーならともかく、山林を買って自ら開拓してしまおうなどという変わり者はきっと世情とかブームとか、そういう世間一般の関心とは次元の違う世界で生きているはずだから、せっかく手に入れた山林をつまみ食いだけして棄てるなんてことはできまい。

 

山林は生き物と一緒。

いちど手なづけたなら、生涯運命を共にするくらいの覚悟で開拓に臨みたいものである。

 

 

もちろん、自戒の念をこめて…。