眺めているだけなら美しいのだが…

 

当地、北海道余市郡赤井川村は、道内有数の豪雪地帯である。

『赤井川村』、といってもピンとくる人は少数だろうが、全国的に有名な倶知安(くっちゃん)町と小樽市から共に直線距離でおよそ20km、同じ後志(しりべし)管内にあり、いずれも積雪がかなり多い地域だ。場所によっては、1シーズンの平均的な積雪量が軽く2mを超える

 

 

▲ 赤い点線で囲われているのが『赤井川村』。村の中心部は西の端にあって、札幌から高速道路利用で1時間ちょい。人口は約1100人しかいないが面積は280km² もあって、これは茨城県つくば市や山梨県大月市とほぼ同等、東京都の山手線の内側の約4.5倍だ(笑

 

実際のところ、豪雪地帯に居住する、というのは、実に骨の折れることである。

札幌市内でマンション暮らしをしていた頃は、ドカ雪が降っても業者さんや管理人さんが人知れず除雪してくれたので、なんら困ることはなかった。しかし、ここではすべてが自己責任である。場合によっては生命の危険すら感じる。

 

まず、起床後、朝イチで敷地内を最低限除雪しないと、クルマが出動できない。クルマが緊急的に稼働できないのは、山中のポツンと一軒家にとっては死活問題だ。ひと晩で降る量にもよるが、動線を確保するだけで軽く90分はかかる。

特に当地は樹を多く残しているので大型機械が入れず、したがって作業の大半を人力+手押しの除雪機に依存することになる。幸い、極寒地なので雪質がサラサラしていて軽いのがせめてもの救いだ。

これが、シーズン中はほぼ毎朝のルーティンとなる。なかなかの重労働である。

 

 

▲ 冬の相棒、WADO社製の手押し除雪機。手押しとはいえ30馬力のトラクターエンジン搭載でロータリーを回転させ、最大で20mほど雪を飛ばせる。こいつが故障したら間違いなく孤立なので、シーズンイン前に入念な点検を依頼した。冬季迷彩なのは…まあ、いいとして

 

 

▲ もう一機の相棒が、CATのバックホウ。こいつの活躍の場は本来積雪期ではないが、キャタピラによる圧雪作業で効果を発揮する。なにより暖房付きのコクピット装備なので、オープンエアの除雪機と違って吹雪の日でもいくぶんか体力の消耗が抑えられる

 

 

そして、なによりハードなのが、屋根の雪下ろしだ。

屋根に20度ほど勾配があれば、雪はあるていど積もると自然に落下する。やっかいなのが下屋やガレージなどの傾斜の緩い屋根で、これは定期的に下ろしてやらないと雪の重みで柱が押しつぶされてしまう。積雪地域の住宅はそのあたりを計算して設計されているとはいうものの、1.5m以上積もると危険とされている。

しかしながら、機械を屋根に上げることはできず、こればかりは100%人力に頼るしかない。しかも、高所作業ゆえに命を落とす危険もあって、実際、北海道では毎年、屋根からの落雪により複数の死人が出る。

 

 

▲ こちらはTOP画像に比して雪下ろし前のもの。積雪50㎝といったところか。まだかわいいものだが、このくらいで下ろしたほうが後々ラクだということを昨シーズンに学んだ。何ごとも溜め込むとロクなことがないのである

 

 

▲ 母屋からの落雪の直後。12坪程度の狭小住宅だが、片流れの屋根ということもあり、一気に崩落するとこうなる。真下にいたら命を落とすか、よくても大怪我だ。屋根の積雪が多くなってきたら、落下ポイントには近づかないのが正解。ひたすら自然落下を待つ

 

 

あと、極寒地特有の問題として、水道凍結のリスクがつきまとう。

地中に埋まっている管は、氷点下にならない土中に埋められているから凍結の心配はない。これは凍結深度といって、赤井川村の場合は深さ60㎝となっている。問題となるのは土中から立ち上がって屋内に入るまでの床下の配管で、もちろん管は断熱材で保護されてはいるが、それでも外気温が氷点下10℃を下回ると凍結のリスクが増大する。

このため、極寒地の住宅には水道管内の水を抜く装置が標準装備されていて、凍結が心配される寒波の夜は、就寝前に「水を落とす」のが慣例となっている。

 

 

▲ これは『tenki.jp』さんの注意喚起だけど、地元局の夕方バラエティや報道では、冷え込みの厳しい夜は画面に「水道凍結に注意」のテロップが踊る。実際、昨シーズンは水を落とさなかったために水が出なくなった経験もあり、以来、冬は天気予報のチェックに余念がない。極寒の朝、お湯ばかりか水すらも出ないという恐怖は、その辛酸をなめた者にしかわかるまい

 

 

…という具合に、極寒の豪雪地帯に居住するというのは、これはかなりマゾヒスティックな行為といえる。

そもそも当地で生まれたとか、あるいはここでしか実現できない生業が存在するとかならいざしらず、わざわざ好き好んでこのような過酷な環境下に移住するというのは、一般常識からするとなにかしら逸脱しているというか、まあ、理解に苦しむ所業に違いない。

 

もちろん、当主に「マゾっけ」はないのだが、では、なぜこのようなハードステージに進んで身を投ずるのか。

 

…と、自問してみるのだが、はて、いったいなぜなんだろうか。

この投稿をアップした後、ワインを飲みながら、ひとり反省会にて検証してみようと思う。