先に我が国における太陽光発電について一覧したけれども、我が国ではFIT(固定価格買取)制度が縮小し、自家用については落ち着いてきているが、工場やメガソーラなど企業規模のものは増えているという印象である。全般としては系統電力よりも自家消費に誘導しているようで、太陽光発電はイニシャルコストの高さ(およそ300万円)もあり、家庭用は魅力のある選択肢ではなくなっている。

※ 系統電力とは送電網に繋ぐこと、我が国では「系統蓄電池」というコンデンサ込みのものに置き換えられているが、諸外国の用法とは違う。

 ウクライナでは真逆の事情があり、太陽光発電はむしろ分散型が推奨されている。現在、ウクライナの電力の20%が再生可能エネルギーによるものであるが、太陽光発電はその多くを占め、2024年度は13GWhを昼間電力として輸出した実績がある。ウクライナでは昼間は太陽光を中心に発電した電力を輸出し、夜は電力を輸入するという運用が定式化している。



※ 戦前のウクライナは自家消費が中心で、系統接続された太陽光発電は1GWに満たず、SolarGapなど廉価な家庭用で、自家消費向けの商品がリリースされていた。これは太陽光を自動追尾するパネル付きのブラインドである。

 もっとも、ロシアの侵攻で主要なメガソーラや風力発電所は軒並み破壊され、戦前からあった装置は壊滅していることがある。火力、原子力も攻撃され、火力発電所などは虫の息である。なので、輸出に充てられている電力はほとんどが開戦後に設置された新電力(太陽光及び風力、バイオ発電)で、太陽光で分散型が推奨されている理由は戦争による。公的資金はほとんど投入されておらず、EUによるウクライナ支援の枠組みである復興会議でも議題に上っていない。

 

※ 他のエネルギーのような具体的な計画や予算がないというだけで、言及していないわけではない。



 このことはこのエネルギーの普及につき示唆を与えているように見える。こういったものを議論する場合、先に挙げた小川淳也氏の著書にあるように、国が音頭を取り、大規模な投資をして大型施設を建設するというのが一定のパターンである。おおよそ3キロ四方の太陽光で原発1基分の電力を生み出すことができ、メガソーラの多くも沿海地域やゴルフ場の跡地を利用した数平方キロの規模である。それはそれで有意義であるが、中国資本など外資に牛耳られたり、恩恵を受ける企業が限られるなどの問題がある。

※ 小川氏は元大蔵官僚なので、提案も国や第三セクター主導を念頭に置いているようである。ウクライナも同様であったが、戦争により機能しなくなってしまった。

 ウクライナの場合はファシリティの自己資金要件(100万ユーロ)があり、太陽光発電を扱う業者の多くが入札から締め出されていることがある。昨年の報告書を読むと、EUはウクライナの中小企業支援や再生可能エネルギーに関心を持ってはいるが、実際に融資されたのはウクライナ国鉄のガス発電1.8億ユーロやウクルナフタ石油会社の非常用ガソリン発電2億ユーロ、ドイツのゴールドベルク社の大型太陽光プロジェクト(500MW)といったものであり、大企業や外資に偏していることは否定できない。

 太陽光も全く無視されているというわけではなく、送電会社ウクルネルゴへの1.5億ユーロは変動発電である太陽光発電に照応した送電網の強化が盛り込まれており、事実として太陽光を含む電力が輸出されている以上、送電網に与えるダメージについては、その手当はしているといった様子である。太陽光発電が送電網を撹乱することについては戦前にすでに指摘があり、我が国の場合も系統電力への接続を求める要望は相当量あるが、実際に接続されたのは620MWと、要望された240,000MWの0.2%しかないことがある。

※ 太陽光発電の場合は稼働効率という概念があり、見た目のワット数は大きくても、実用できる数字はかなり小さい。上記の数字も環境省の書面では6.2GWと2,000GWとなっているが、表記の統一のため、こちらで修正した。

※ 系統接続についてはウクライナでも業者が大量参入した時に送電網への負荷が問題化したことがあり、報告によるとその影響は「壊滅的」という話である。


 要するにウクライナでは、政府が資金援助をほとんどしていないにも関わらず、民需主導で太陽光発電は増え続け、政府も国民もそのメリットを享受していることがある。戦時中なので正確なデータは伏せられているが、多くは一般家庭の売電によるものと思われる。

 適切な枠組みがないため、政府を通したEUの資金はガス発電など見当外れなものに投資されており、有効性が限られる上に、民間経済への寄与はほとんどなく、外資や大企業に利ざやを搾取されているといった構造があり、これは先月のキーウやハリコフでのデモの遠因になったものである。

 太陽光発電については小川氏以外にも様々な意見が聞かれるが、やはりハードウェアの本質を無視はできない。発電効率はその仕組みから家庭用もメガソーラも効率に大差はない。また、メガソーラは大面積を要することで自然破壊をもたらすことがあり、有事の際には格別に脆いことは、緒戦でロシア軍がメガソーラを率先して破壊したウクライナ戦役で明らかになったことである。

 彼らは一見愚鈍なように見えるが、こういうインフラについては念入りに調べ上げ、執拗に攻撃したことがある。今でも老人ホームや幼稚園、マンションを攻撃しているのはテロだけが理由ではないだろう。が、これでも一般家屋に設置された太陽光パネルを根絶するには至らないのである。ミサイルやドローンを投入するにはこれらの目標は小さすぎ、価値が低すぎることがある。

 昼間電力を太陽光で補完する場合、我が国では各々50平米のパネルを屋根に取り付けた場合は400万戸もあれば十分という試算もできる。ウクライナでも同様の試算が行われているが、計算上は同国のエネルギー需要を十分に賄えるものである。

※ 我が国の戸建て住宅の戸数はおおよそ3,300万戸。

 なお、夜間は稼働できないという性質上、太陽光のみで全ての電力を賄うことは現実的ではない。多くて30%程度が限界であり、残りの70%は原子力と水力、10%は火力発電とし、電力ピーク時に需要を賄う(110%)のが現実的であるが、ウクライナの例を見ると、太陽光に関してはどうもトップダウン型では上手く行かず、一般家庭を巻き込んだボトムアップ型(50kw以下)の推進が、このエネルギーの本来の姿であるように見える。

 

※ 現実的には基幹電力として原子力30%、水力40%、昼間電力として太陽光など再生可能エネルギー30%、火力10%くらいが座りの良い線である。太陽光発電の電力を揚水電力に用いれば、揚水発電を増やして原子力への依存度は減らせる可能性がある。また、環境省との関連でほとんど利用されていない地熱エネルギー、波力エネルギーも見当の余地のあるものである。

 

※ 原子力は現行3基の新設計画を8基とし、40~42基の稼働が望ましい。現在稼働可能な原子炉は33基。

 

※ 現在は火力発電が約70%、原子力と水力が各々8%ほど。