"Look at what we've been hearing about lately: minerals, territorial concessions, and even suits – but no one’s been talking about people."
(Oleksandra Matviichuk, activist, the Nobel Peace Prize in 2022)

「最近私たちが耳にしていることを考えてみてください。鉱物、領土譲渡、さらには訴訟などですが、人については誰も話していません。」
(オレクサンドラ・マトヴィイチュク、活動家、2022年ノーベル平和賞受賞者)
 

 トランプのウクライナ和平提案は例によって言った言わないの水掛け論になっているが、自由や民主主義、人権といった高次の法に属する争いに経済的論議などを持ち込むところが場違いであり、最初は驚かされたが、今ではどこの国も米国大統領の言い分は話半分に聞くスタイルが定着したようだ。そもそもアメリカ人の大半がMAGAみたいな考えを支持してない。

※ モア・イン・コモン(ヨーロッパを中心に活動する非営利団体)の調査による。調査は政権中枢部とアメリカ一般国民の意識の乖離を説明している。

 その間にもロシアとウクライナの争いは苛烈を極め、情け容赦のないものになっているが、当初には見られたロシア人にも良い人間はいる、ロシア兵も同じ人間といったヒューマニズムは今では誰も言わないものになっている。

 


 上の動画、「勝利者の精神」はウクライナ軍広報機関の制作だが、降伏と抵抗という二つの選択肢を提示し、後者こそが生きる道と唆している。字幕は付かないが内容は映像を見れば分かるもので、Zマークのトラックが走り去ったり、クルスク戦線を模したストーリーはかなりベタだが、これまでのロシア軍の行いを見ると全くのプロパガンダとは言い難いものがある。

「勝利者の精神(ウクライナ軍国境防衛隊通信局制作)」ストーリー
 

 ロシア軍に追い詰められた前線兵士3名の物語である。

 

(選択その一)ロシア軍に降伏する

 その場で銃殺され、後に襲われた兵士の家で妻は殺され、娘はZマークの自動車に連れ去られる。

 

(選択その二)あくまで抵抗する

 兵士の一人が手榴弾を投げ、自動小銃で果敢に抵抗する。それを見た二人も銃を取り、味方のドローンに助けられつつ、ロシア兵を殲滅して帰還する。

 


 ロシアでも評判になっており、ロシア軍のツィートでは「強制動員されたマリファナ中毒者(ウクライナ兵を指す)向けの陳腐な似非プロパガンダ」と批判されているが、カツァップ(ヤギを指す)は東欧諸国におけるロシア人の蔑称で、ツィプコシュカ(メス豚)は主としてロシア兵の間で通用しているウクライナ人の蔑称である。論考ではロシア兵の嗜虐性と残虐性は国内における権威主義文化と男性優位文化の裏返しと説くものがあったが、蔑称一つ取っても垣間見えるものである。大東亜戦争時代の日本兵もその点は似たり寄ったりであった。

 

カツァップ(モスクワっ子)のイメージ、ロシアでは髭はステータスである。


ウクライナ参謀本部による3月21日の戦況、突出部に要塞があることが分かる

 クルスクの戦いは陣形や守備位置などは前回と変わらないので、やはり要塞が準備されており、計画的退却だったという説が説得力を持ち始めている。スジャへの回廊というと真っ先にR200号線が思い浮かぶが、ロシア軍の管制下に置かれたというこの道も、そういうことならなぜ急速に進軍しないのかという疑問があり、ここ数日は猛攻にも耐えていることから、このあたりの造作は報道よりたぶん複雑である。HIMARSも到着し、後方のコクサン自走砲(北朝鮮製)に砲撃も加えている。ロシア軍のクルスク解放作戦は挫折に直面しつつある。

 先にウクライナ軍は旅団優位の傾向が強く、一部の部隊には独断専行のきらいがあるという指摘をしたが、戦いが始まって以降は行方不明の戦車部隊、エイブラムズ戦車やブラッドレーを含む、は30キロ南のデミドフカ(ベルゴロド州)に出現し、ようやく参謀本部も追認したが、周辺自治体を攪乱して一部はロシア領にあるようである。こんな所で油を売ってないでクルスクの援護をしろと言いたくなるが、これはたぶんクルスク作戦の原型となったザルジニー案(ベルゴルド侵攻)が一部の部隊長の間では生きていて、スジャ陥落を好機に実践したものという見方もできる。侵攻中のスジャの司令部にはかなり深刻な意見対立があったようだ。


北朝鮮軍コクサン自走砲、正式名を「주체포(チェジェポー)」と言い(読めるのが怖い)、射程も一般ロシア砲より長く、威力も3倍あるDPRKの決戦兵器。


 最近の論調ではウクライナ憲法の規定からゼレンスキーを「降ろせない」ことにトランプがようやく気づいたというものがあるが、彼の特使のウィルコフはそうではなく、停戦して選挙を行い、人気者のウクライナ大統領を引きずり下ろすことを再び画策しているという。なんと愚かな人たちだろう。