明日トランプとプーチンの電話会談が行われるが、ロクなものにならないことは明らかで、両者の合意が「全てゼレンスキーが悪い」で落ち着くだろうことも予想できる話である。



 今日のクルスクの戦況だが、メディアでは戦場から逃げ帰ったウクライナ兵らによる敗走の現実が赤裸々に語られているので、朝鮮軍と新型ドローンに追い回され、ウクライナ軍は総崩れ大惨敗という印象だが、多少割り引く必要はある。

 ウクライナ軍はクリオバからは後退し、右翼のグエボ村も朝鮮人民軍の圧力に晒されているが、実は意外なほど持ち堪えている。ロシアとDPRKは部隊を交替させながら攻撃を続行しているが、これが国境までウクライナ軍を追い出すことを命ぜられた部隊であることを見ると、大丈夫かいなという感じである。ウクライナ軍は二個空挺旅団が再編に成功している。そのまま抗戦しつつウクライナ領に後退するか、あるいは増援を待って反撃に転ずるかはまだ分からない。



 この戦区とは別に、ロシア軍が別働隊を組織しているという情報があるが、昨日はスジャから直線距離で60キロ離れたテトキノあたりとしたが、いろいろ総合するとどうもさらに北、90キロ離れたシドルキのようである。周辺の村落がさかんに爆撃されており、斥候隊の姿も見られる。

 規模はクルスク軍と同規模の5万といったところだが、クルスク軍は度重なる戦いで消耗しており、増援を受けていてもスジャにあるのは実勢2~3万と思われる。これだけ離れていると共同作戦ということはありそうになく、やはり司令部を別に設け、総司令官の直接指揮でスームィ攻略を狙っていると思うが、今のところ国境付近に相当規模の軍団の集結はないようである。

 敗走したウクライナ兵のコメントによると、諜報作戦は前線から50キロ以内は95%以上がウクライナ軍自身の諜報、150キロまでが米軍で、それ以上は闇の中という話である。米軍は衛星偵察に頼りすぎており、現地のアセットが貧弱で、戦場情報でウクライナ軍がカバーしている部分は実は意外なほど大きい。

 

 入ってくる情報は悲惨だが、注意した方が良いのは、これらの報道は大手メディア自身が特派員を派遣して実地に取材したわけではないことがある。多くはSMSで、特派員を派遣している現地メディアはそれほど悲惨な報道はしていない。スームィ州は報道管制が敷かれていて、取材が制限されていることもある。

 結論を出すのはまだ早いが、ロシア軍のスジャ攻略作戦は必要最小限の兵力で実行された不完全なものであったように見える。半年以上の滞留でウクライナ軍の司令部に油断が生じていたこと、他の戦線の要請で部隊が相当数引き抜かれていたことがあり、ロシア側は豊富なDPRKの兵力を活用できたこと、ワグネルなど戦闘経験豊富な兵員を多数揃えていたことなどが勝因だが、もしもう2個旅団、3個旅団の増援があったなら、ウクライナ軍を叩き出すことは完全に可能であった。

※ 実を言うとロシア軍が殲滅戦を展開したマリャ・ロクニャ付近は参戦したワグネルチャンネルなどあり情報豊富だが、スジャに近づくにつれて少なくなり、戦場が郊外に移転したここ二日ほどの様子はてんで分からないというものである。テレビにスジャ市として映っていたのは隣町の映像である。

※ スジャ市の映像は昨日入るようになり、市役所含む中心街はやっぱり爆破されていたが、ワグネル説だとこれもウクライナ軍による砲撃と爆破活動によるものとされている。あと、ブリヤート人を名乗るロシア語のうまい朝鮮兵が住民の救助活動などを行っている。


※ クルスクのウクライナ軍の弱体化はキーウの最高議会を中心に攪乱したロシアの政治プロパガンダの成果と思われる。ウクライナ軍は個々の戦闘では比較的堅調に勝利を収めていたが、それもあって駐屯していた部隊は徐々に減らされ、領域もそれに従って縮小され、兵力も3月の時点では1万を切っていた。これは侵攻時の半分以下であり、ロシア軍はDPRKも含む兵力比が3対1になったところを見計らって教科書通りに攻撃を仕掛けたのである。

 現在の事情では、ロシア軍は再反撃を受けてスジャ以東に後退することもありえないものではなくなっている。ウクライナ軍も増援が必要で、これは戦略レベルの判断だが、ウクライナのクルスク・カードはまだ失われていないように見える。

※ 第40、80空挺旅団は疲弊しているので、増援は派遣したように見える。ロシアを含む戦力状況は後の報道だと概ね当方の見立て通りである。ロシア軍は大規模な増強はしていない。攻撃の主力は810旅団である。兵力はDPRKが最も多い(12,000~17,000)。

 クルスク作戦については、実施しても陽動とすぐ見抜かれ、ロシア軍も失っても痛くないような適当な部隊しか応接しなかったため、作戦の有用性については早くから疑問が呈されていた。政府内でも割れていたようであり、有力な勢力を割いたためドネツクほかでロシア軍の浸透を許したという批判的意見はずいぶん前からあった。いざ攻撃の際に、補給路に対する手当をしておらず、兵力が半減して防備が弱体化していたことは、政府において作戦に定見がなかったことを示している。

 おそらく最近は、この土地はロシアが停戦提案を呑んだ場合の交換地として考えられていたと思うが、トランプ政権の裏切りにより、その企図を看取したロシアは一か八かの強攻策に出て占領地を奪取した。さらにスームィ攻略を企図して大兵力を集めていることから、クルスク作戦は末期になって有用性が生き始めたのは意外なことであった。

 

 

(補記)

 

 

 この話し合いでロシアはウクライナ軍の武装解除とウクライナのNATO加盟禁止、ゼレンスキー政権の解体とヘルソンとザポリージャを含む4州の割譲を要求しているが、でたらめな条件設定の中でただ一つ、ザポリージャ原子力発電所だけはウクライナに返したいとのことである。これはおそらく戦闘と管理不十分で壊れかけており、修繕費をウクライナに押しつけ、停戦後のウクライナの財政窮乏化を図っているものと思われる。

 

 

 なお、プーチンの言う「ノヴォロシア」とは上図の赤い部分を指し、ヘルソンはおろかオデーサやハルキウを含む広大な地域である。

 

 

 

 クルスクの敗戦における情報提供停止が過大に評価されていることはすでに指摘があるが、これもトランプとロシアが作った事実歪曲のナラティブの一つである。原子力発電所の話などは、本来はトランプが真っ先に責任追及と安全確保の提案をしてしかるべき話であった。

 

 

 

 アメリカ人の言説にしては珍しく明快でまとも、私も同意見だが、強いて付け加えるなら、これにボーイングE-7にAMRAAMミサイルも加えたい。