ムキになってウクライナつぶしに血道を上げている所を見ると、やはり前回の首脳会談は「(いろいろな意味で)負けた」という意識が強いのだろう。ついに在米ウクライナ人24万人の滞在許可の取消にまで走ったトランプ氏だが、この様子を見るとゼレンスキーとの和解はとうてい無理と思われる。が、それはゼレンスキーも分かっているだろう。何といっても彼は役者である。トランプに頭を下げるくらいのことは何でもない。問題はそれが何の役に立つかといういうことである。売国的な鉱産取引ではおそらくないだろう。
※ 24万人はロイターの報道だが、ホワイトハウスは「フェイクニュース」と否定している。どうもトランプ政権の旗色は本土アメリカでもかなり悪いようである。
※ そもそも自国の大統領なのに彼を擁護する人間が共和党議員しかいないという所で終わっている。
上図は2025年2月7日から3月6日までのウクライナ参謀本部発表によるロシア兵器の損害数だが、ウクライナを蚊帳の外に置いた2月16日の米露和平協議においては、ロシアと交渉するのは数年ぶりだったこともあり、いい所を見せようとロシア軍は総攻撃を掛けたが(結果はイマイチであった)、会談後は力尽きロボット兵器に頼る様子が窺える。今月になるとドローンさえ減り、攻勢は全般的に低落し、この一週間で油井施設や司令部など重要拠点の被爆を許している。
ウクライナ軍の記録なので、物資欠乏により撃破率が下がっているのだという見方もできるが、重要拠点や陣地が占拠されたという情報もないので、これはやはりロシアの攻勢が減退しているというのが正しい見方だろう。
両軍の兵士にとってはこれは一種のストレス・テストで、兵士でもない外野でもストレスを感じるほどの混迷ぶりなのだから、実際に銃を取って戦う彼らではなおのことである。ウクライナ兵のインタビューを読むと、会談が決裂するや否や、彼らはアメリカ大統領を見限ったようだ。戦場では素早い判断が要求され、彼ら自身生死を賭けているのだから当然のことだ。これは武器さえあれば戦闘力は維持できる。
※ ゼレンスキーに求められた「謝罪」はどうもウクライナでは悪ノリの様相を呈しており、昨日はF-16パイロット(棒読み)とパトリオット(嫌そう)だったが、今日はあまり役に立っているように見えないホークミサイルの操作員が定番となったプラカードを持って感謝の言葉を述べている。表情も笑みを浮かべるなど前二者に比べ表現もこなれており、この様子だとウクライナでは「謝罪」がブームになりそうである。
ロシア側では近々戦闘が終結することは兵士の間ではある程度期待感を持って見られていたようだ。彼らの戦術は絶望的なもので、出陣すると戦死は免れがたいことから、彼らが終戦を願うのは当然である。ゼレンスキーの卑屈さは(彼は俳優である)、彼らロシア兵には一種の清涼剤になっているかもしれない。トランプが条件を嵩上げしたことで交渉が長引いているが、長引けば長引くほどストレスが溜まり、戦意はだだ下がりに下がっていく。将官や大隊長クラスならともかく、中級指揮官以下も士気低下の影響を受けているだろう。兵の質が低いことから、よほどのことがない限り、一度低下した士気を回復させることは簡単ではないだろう。
ドッジ団を始めとして、就任一ヶ月のトランプ氏の行状はあちこちで不協和音が聞こえ、定例の議会演説も自慢話タラタラの中身の乏しいものだったが、独善に過ぎるため、説明不足の声はあちこちで聞かれる。というより、関税にしろドッジ団にしろ、彼はまともな説明を一度もしたことがない。言うこともコロコロ変わるので、これは戦場にいなくてもストレスの溜まるものである。
ゼレンスキーについては、トランプ社で社長の不興を買った重役が二度と彼の前に姿を見せないよう、戦時下のこのウクライナ大統領を失脚させるべく、手下どもがあれこれ工作しているようである。議会演説でもウクライナに触れた箇所は僅かで、それも知識のアップデートもしていないようなもので、トランプがゼレンスキーのラブ・レター(Xツィート)を逐一暴露して悦に入っているようなものだった。恋愛でラブレターを見せびらかすような彼氏ないし彼女がいたら、それは脈はないと思って間違いないだろう。このくらいで説明できるような行動パターンである。
さらに欲深いことに、ゼレンスキー(いずれにしても死刑だ)の譲歩だけでは飽き足らず、前回の鉱物取引もより搾取的なものにバージョンアップしたいらしい。前回は5千億ドルだったが、今度は1兆ドルで、ロシアに使嗾されていることもあり、ウクライナにさらに譲歩を求めているようだ。それはそれでご苦労なことである。
※ 最新の報告ではアメリカのウクライナ援助の実額は980億ドルほどで、千億ドルを切っている。
ゼレンスキーについては、戦時下のウクライナで選挙などできるわけがないことがなぜ分からないのかと思うが、トランプの側近がゼレンスキーの政敵ユリア・ティモシェンコとポロシェンコ(元大統領)に接触したことが報道されている。彼らより人気のあるヴァレリー・ザルジニー元将軍にも声を掛けたはずである。なお、この三人はゼレンスキーとは決して仲は良くない。特にポロシェンコは犬猿の仲である。
※ 以前の報道では前大統領のポロシェンコの方が融和的で、大統領に就任したゼレンスキーに和解を持ち掛けている。が、ゼレンスキーが彼を嫌っており、汚職による告発や逮捕などさまざまな手段で彼をいじめ抜いた。ウクライナ戦争では共闘し、軍隊の組織や武器の調達など元オリガルヒとして戦争遂行に貢献しているが、大統領職に未練があることは何回かのインタビューで当人の言葉として説明されている。元大統領の苦境を見て、プーチンはロシアへの亡命を勧めたが断ったという逸話もある。
トランプ世界ではゼレンスキーは強権でウクライナを支配する、支持率4%で汚職まみれの独裁大統領なので、そういう相手ならなおのこと接触には注意を払うべきだが、接触した全員に断られ、ゼレンスキーより大人のポロシェンコは接触の内容を洗いざらい暴露して議会演説の意趣返しをしている。なお、英国調査機関サーベーションの最新の調査では、会談後の支持率はゼレンスキー44%、ザルジニー20%、ポロシェンコ10%、ティモシェンコ5.7%であった。
会談の前はゼレンスキーより人気のあったザルジニー元将軍は「世界秩序を破壊しようとしているのは米国」と言い、発言を報道したタイムズ紙を見て、報道を訂正して「より正確な報道を」として提供したのは以下の一文である。
Quote from Zaluzhnyi: "It is obvious that Washington's failure to recognise Russia’s aggression is a new challenge not only for Ukraine but for Europe as well. Therefore, this is enough to understand that it is no longer just Russia and the axis of evil trying to destroy the world order, but the United States are effectively finalising its destruction."
ザルジニー発言の引用「ワシントンがロシアの侵略を認めなかったことは、ウクライナだけでなくヨーロッパにとっても新たな課題であることは明らかだ。したがって、世界秩序を破壊しようとしているのはもはやロシアと悪の枢軸だけではなく、米国が事実上その破壊を決定づけていることを理解するのに十分だ。」
訂正前はこちら。
Quote cited by The Times: "It is not just the axis of evil trying to revise the world order … The US is destroying the world order. It is obvious the White House has questioned the unity of the whole western world. And now Washington is trying to delegate the security issues to Europe without the participation of the US."
タイムズ紙が引用した引用:「世界秩序を改変しようとしているのは悪の枢軸だけではない…米国は世界秩序を破壊している。ホワイトハウスが西側世界全体の統一性に疑問を抱いていることは明らかだ。そして今、ワシントンは米国の参加なしに安全保障問題をヨーロッパに委ねようとしている。」
見比べるとあまり変わらないようにも見えるが、こういう人物がトランプの手先になるはずがなく、ゼレンスキーとの関係でも、彼には「マクレラン二世」の誘惑が常にあるが、私の見てきた所、歴史に造詣の深いこの人物はこの故事は知っているようだ。
※ 「あまり変わらない」と書きはしたが、私の知る限り、「米国=トランプ」を世界秩序の破壊者(の幇助者)、いわゆる「世界の敵」と明確に名指ししたのは、EU・ウクライナの関係者ではザルジニーが最初である。司令官を拝命した3年前は、まさか当人もこういう役回りを演ずるとは思っていなかっただろう。なお、より穏健な発言でトランプ批判をしたニュージーランドの高等弁務官は解任されている。
※ 私の見方では「世界の敵」はアメリカではなく、ドナルド・トランプとその一味である。これは名指しした上で、主権者であるアメリカ国民にトランプ一党の処分を求めることが正しいように思う。問題は誰がそれを言うかである。
それにトランプの陰謀が功を奏せば、後にロシアに占領されることから、ウクライナ大統領の地位は死刑台まっしぐらの道で、誰がそんなものになりたがるかということはある。トランプという人物はそういう点、どこか間が抜けている。
フランス大統領マクロンは同国の「核の傘」を拡張する発言をしたが、これは鉱物取引の再交渉に紛れてあまり注目されていないウクライナの「航空停戦」に関するものと思われる。ゼレンスキーはトランプへの「遺憾(事実上の謝罪)」の直前にロシアに航空攻撃の停止を求める「航空停戦」を持ち掛けたが、これはフランスの案である。ウクライナの前線は長大で、監視部隊の展開は困難だが、領空であれば監視は地上より容易で、具体的には英仏の航空部隊をウクライナの飛行場に展開する案である。フランスの一部の戦闘機・攻撃機は核兵器の搭載が可能で、核搭載機を展開することで停戦監視の実質を確保しようという考えに見える。
英首相スターマーを介してトランプを招待した英国王チャールズ3世は5日、同国の航空母艦「プリンス・オブ・ウェールズ」を視察し、王室外交の一端としてイギリス軍が戦闘地域に展開することを示唆した。国王はウクライナ戦争に早くから関心があり。ウクライナ兵の訓練を視察したり、傷病者を病院に見舞っていることは知られていることである。大型空母を黒海に派遣するにはモントルー条約の制限があるが、バルト海、ムルマンスクのロシア北方艦隊を牽制することも考えられる。バルト海上空ではNATO軍航空機とロシア空軍機の接触が度々起きている。
※ 一応ビデオでは同艦は日本に向けて出航することがコメントされている。が、一度出航した戦闘艦の行き先は日本でも詳細は公表しないものである。フォークランド紛争では売却されてインドに向かっていた空母ハーミーズが呼び戻され、そのまま戦闘に参加した事例がある。
A right royal occasion for the crew of HMS Prince of Wales (@HMSPWLS
— BFBS Forces News (@ForcesNews) March 4, 2025
).👑
For the first time in nearly 40 years, a reigning monarch has joined a @RoyalNavy warship at sea.
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「航空停戦」についてはロシアは無視を決め込んでおり、弾頭ミサイルによる攻撃は現在も行われている。が、英仏もそこまでは計算済みと見え、ゼレンスキーのトランプに対する発言も会談後は公表前にフランス当局者によるチェックが入っているという話も聞く。マクロンとスターマーは「媚態外交」でトランプの心証を良くすることに成功したが、成果もなかったことがあり、現在のところ、EUとウクライナの外交は本格的な衝突の前の時間稼ぎ、トランプなどには誰も期待しておらず、情報攪乱の要素が大きいように思われる。