3月のアウディウカ失陥以降、全般的に攻勢に出ているとされるロシア軍だが、統計を取ってみると全般的に月あたりの損害が昨年の1.5倍になっていることがある。例えば自動車、昨年は600~700台くらいで推移していたが、最近では月あたり2千台近くになっており、これらがすべて損失となると、他人事ながらロシアトラック市場の心配をしたくなってくる。

 全般的に損害のペースは変わらないが、輸送車両と司令車など特殊車両、ドローンの損失が増えており、また、3月以降では地上破壊も含む12機の航空機も失っている。兵員の損害も月3万人ペースであり、欧米の経済制裁でハイテク機器の入手が困難になっているロシアとしては高度兵器についてはジリ貧で、ローテク兵器も生産が滞るなど、進行当初と比較して歩兵主体のよりプリミティブな軍隊に変性しつつある。ポクロフスク戦線が最も戦闘が激しい。

 ハリコフの戦いは一段落したが、やはり侵出はしたものの帰還が困難な作戦で多数の捕虜が出た模様である。中央管区軍はシヴェルシクに主戦場を移しており、指揮過程における、いつものロシア的混乱が退却の遅れと部隊の孤立に繋がったように見える。奇襲作戦ではあったが、元々がクレムリンの陰謀工作の徒花で、成果を拡大する決め手に欠けていた。

※ セベロドネツクを起点とするライマン近郊のシヴェルシク戦区は情報が少ないが、ハリコフで中央管区軍の用兵巧者ぶりが明らかになったことで、同じく同軍が担当するこの戦区は警戒すべき地域となっている。

 この戦いでは戦場以外にももう一つの戦いがあった。それは国際外交におけるウクライナ平和会議で、主として中国の策動により、共同声明の文案は二転三転し、一時は主要条項のほとんどを削除されたウクライナの離脱すら囁かれた。そのことが暴露されたことによりウクライナ国民が憤激し、最終的な条項案がまとまったのは会議の2日前である。この会議は2回目が近日中に予定されている。

※ ウクライナ戦争が対象の平和会議なので主導国はウクライナに見えるが、実際はEU、中でもスイスが条項策定の主導権を握っている。会議のコンセプトは良く分からないが、ウクライナ版ダボス会議のような運用に見える。なので当事国のロシアや中国が参加しないことについては批判の声もある。

 国際社会で発言力を失ったロシアの代理人は中国であり、このロシア、中国、北朝鮮の枢軸が現在の世界を不安に陥れていることがある。が、中国の民間セクターではロシア離れの動きも見られる。

 英国国防省は戦費不足のロシアが増税することを伝えているが、意外なことにこの増税はロシア国民には悪印象がない。増税の対象が法人税と高額所得者であることがあり、不人気な上級国民に課税することでプーチンの財界掌握を完全なものとすると同時に支持基盤を固めるものであると思われる。が、増税分はいずれエンドユーザーに転嫁されることから、彼らの楽観も当座のことである。

 ウクライナはとうの昔に財政破綻しているが、大統領府は国有資産の売却と投資勧誘に舵を切っている。前にも少し書いたが、この場合の借財はウクライナにとって悪いことばかりではない。売却は国有企業部門を中心に行われるが、元々これらの企業は問題が多く、売却における最大の問題は交渉の最中にロシア軍によってインフラが破壊されてしまうことである。が、驚くべきことは激しい戦闘を続けつつもウクライナが経済成長していることである。

 ゼレンスキーは任期切れで選挙を行うことが望ましいが、今の事情では投票所を設置した途端にミサイル攻撃されるのがオチで、選挙の実施は保安上の理由からもできないものになっている。