狙いはアメリカ下院のウクライナ支援法案の採決とトランプ再選と分かり切っているが、アウディウカ失陥以降の我が国で披露される報道やニュースはかなり喧しい。これはロシアが対外諜報に割いている予算が他の国とはケタが違うこともあるが、メインはアメリカで、我が国はその傍流のはずなので、なんでこうもまあキャスターや識者がウクライナ敗戦論を声高にぶち上げるのか良く分からない。

 彼ら分かっているのだろうか? もしウクライナが負けたら、これはドンバスで終わりではなく、キエフ陥落とゼレンスキーの亡命しかありえないが、対岸の火事ではなく、戦いの帰趨が見えたら、すぐに中国が台湾を占領するだろうことがある。

東シナ海の中国漁船団

 これについてはアメリカの戦略問題研究所(CSIS)がまとめた報告書があるが、分厚い割に中身の薄い内容で、あまり参考にならない。

 法案については、アメリカの制度は日本とは違うので、予算案につき衆院の議決が国会の議決となることはなく、法案は採決されるまで上下院を行ったり来たりすることになる。が、いつまでもというわけには行かない。

 支援国の内訳を見ると、兵器など軍事支援についてはドイツなどアメリカ以外の国の金額がおよそ4割を占める。つまり、アメリカの支援抜きでもおよそ10ヶ月は戦うことができ、これらの国々は支援に前向きであることから、報道は危機的だが、ウクライナが今すぐ負けるということはありえないように見える。

 ここでウクライナ敗戦キャンペーンがこと我が国でヒートアップしている裏側には、上記とは別の内容、日本政府の思惑もあるように見える。我が国は上川外相がキエフを訪問して58兆円という巨額のインフラ支援をぶち上げたが、これはウクライナでもニュースになったほどで、今までも軍事的な援助はほとんどないが、財政支援は英国に次ぎ、ゼレンスキーの給料もかなりの割合が我が国の金なのだから、支援は決して小さい額ではない。

※ そもそもインフラも作った先からミサイル攻撃される懸念もある。兆円単位の巨額の投資には保証を考えるのは普通のことだろう。ロシアと交渉する動機は岸田氏には十分にあるように思われる。

 戦争がなければ、ウクライナと我が国の同盟はメリットが多い。例えば先日我が国はH3ロケットを打ち上げたが、同じロケットなら種子島よりもウクライナで打ち上げた方がずっと簡単である。また、海上輸送については全世界の航海士の10%がウクライナ出身であり、オデッサの海員学校の規模は我が国の20倍である。これは海上輸送に依存する我が国には大きなメリットとなる。食糧自給率については言うまでもない。また、サブカルを初めとする日本文化の浸透もあり、国民は親日的である。汚職があるが、ロシアに痛めつけられているせいで本気の改革を進めている。

 それもこれもロシアに占領されなければの話だが。

 おそらく水面下で和平の仲介のようなことを岸田政権は行っていると思われる。我が国にとってはウクライナの国境線が2014年であろうと現在の占領地域を含むものであろうと別にどうでも良いことがある。アゾフスタルの製鉄所と港湾は欧州有数だったが、この種の設備は我が国にもある。ドンバス地域はロシアが占領する前から経済破綻しており、主たる産業は鉱業や重工業で、我が国が関わるメリットはない。

 計画の壮大さから、総務省の一部では「満州国復活」みたいなムードもあるかもしれない。あんなのは願い下げだが、こと今の時点でも戦争が終わってくれればという願望はあるのだろう。朝鮮半島みたいに80年も膠着状態が続けば、それもあるかもしれない。ただ、私は現地ニーズ無視のこの計画は、たぶんうまく行かないと思う。

※ 岸田氏にこの種の計画に傾倒する傾向があることは能登半島沖地震での対処に度々垣間見えたものである。思うに彼は現実から問題を把握するより、スマートに整った計画のようなものに魅力を感じる人物なのかもしれない。彼の提案したプッシュ型支援と二次避難計画は現在では完全に破綻したものとして受け取られている。

 ちなみに、インスタントラーメンは欧州ではあまり売れないので、欧州向けの製造工場があったのはウクライナである。個々に工場を作るよりまとまって作ることができ、あの農心も工場を持っていることから、ウクライナは欧州におけるラーメンの聖地である。が、韓国は岸田氏より、もう少し現実的なようだ。

 プーチンにしてみれば、岸田氏を含む我が国の政治家は20年以上の彼の政治キャリアでは幼稚なほどにお人好しで、面白いようにコロリと騙される面子と見えているに違いない。安倍晋三などは彼の弟子のようなものであった。

 

 今回も提案は反故にするつもりに違いなく、例によって何か企みがあるはずだが、それがウクライナ国民の苦痛と死を徒に引き伸ばすだけのものであれば、それは少々やりきれないものがある。

 ちなみに私は鮭はロシア産と決めている。一時期供給が滞ったが、最近は安定供給で価格も安く味も良いので、ウクライナには悪いと思いつつ、ついつい買ってしまうことがある。
 

 実はこれがこの戦争が長引き、プーチンとその取り巻きが戦争資金を手に入れ、国民を虐げて贅沢な暮らしができる理由である。ロシアは産油国で、我々が現在の生活習慣を続けている限り、制裁の名目は何であれ、軍資金はロシアに流れ続けることがあり、またこの石油消費というものが、あらゆる需要の中で最も可塑性が乏しいものであることがある。

 

※ 石油と鮭やラーメンは関係ないではないかと言う向きがあるがさにあらず。エネルギー価格は他のあらゆる分野に影響を及ぼすもので、エネルギーの高騰は多くの場合物価高に直結する。鮭は漁港から、水産加工場や保冷車での輸送、漁船にスーパーの陳列棚とあらゆる場所でエネルギー価格の影響を受けるからだ。これは他の産品も変わらない。

 

※ 典型的な例としては元々気候に恵まれていたスペインのガルシア地方では、昨年電気代の高騰を受けてオリーブ畑の散水装置の稼働を停止した。肥料は元より高くなっており、これに地球温暖化が加わった結果、昨年のオリーブは例年にない不作となり、オリーブ油の価格は二倍に高騰している。