反転攻勢の終了を受け、ウクライナ情勢の定期報告は終了と書いたが、フォローを止めたわけではなく、定期的な情勢観測は続けている。が、今月に入ってからのロシア軍の攻勢を見ると、まるで壊れた蛇口のように、散漫で犠牲の多い突撃を繰り返している。一時期は装甲車も枯渇し、目標をアウディウカとマリンカに絞ったように見えたが、それもつかの間で、ロシア軍は南部を含む各戦線で攻撃を続けている。


※ 猛攻というほどのものではなく、多くは思い付き程度の襲撃である。
 

 ロシアの人的損失は反転攻勢の開始当初は一日700人台だったが、このところは千人を超えており、1,300人という日もあった。いつまで経っても攻撃が止まないので、弾薬が枯渇したウクライナ軍は戦線縮小を考えており、砲撃戦は低調になっているが、しばらく使われていなかったジャベリンミサイルを倉庫から持ち出して反撃しているのでロシア戦車の損失はむしろ増えている。

 ジャベリンは射程数キロの携帯式の自立誘導式ミサイルで、HEAT弾で戦車の装甲を焼き切って被爆させる兵器だが、携帯といっても一見してかなりの大きさがあり、弾頭も小学生の子供くらいあるので、砲撃戦たけなわの頃は使えなかったと思われる。これが出てきたということは砲弾枯渇はロシア側も事情は同じと見える。一昨日はロシア戦車44両が一日で撃破された。20日までの10日間の戦果もロシア軍の攻勢が最も苛烈だった10月末に近い数字である。

 撃破されたロシア戦車には多数の爆発装甲が装着されていたことから、旧型のT-62かそれ以前の車体と思われる。これらの戦車は設計が古いため装甲が薄く、ウクライナもロシアもアタッチメント式の装甲で防御を加重している。これもなくなったら両軍は石でも投げ合うしかない。が、戦況を見る限りウクライナ軍に厭戦や士気の低下といった様子は見られない。国際報道とは大きく違う所である。

※ 国際報道ではロシアの調略戦が成功しており、ウクライナはジリ貧で欧米の援助は枯渇しているという、ロシア有利の報道がなされている。が、ここ3ヶ月でロシア軍がありえないほどの損失を出したことについては、ロシアが攻撃を続けていることにより、「防戦一方のウクライナ」という悲観的なタイトルに書き換えられている。

 大統領ゼレンスキーの支持率はウクラインスカ・プラウダの報道だと77%で、以前の90%より低落しているが、それでもダントツに高い支持率である。NYタイムズのクラマー記者は62%とし、ザルジニーが88%としているが、同じキエフ社会科学研究所(KIIS)のデータを使いながら結果が異なるのは、前者が政治家の信頼に対するアンケートで、後者がその前日に公開された国家機関の信用に対するアンケートであることによる。


ウクライナ政治家の信頼度調査(KIIS)

 クラマーが指摘したのは「大統領(機関)としての」ゼレンスキーの信用度であり、「最高司令官(機関)としての」ザルジニーである。ほぼ同日に公開されたレポートでクラマーがなぜこのデータを選んだかは分からないが、私自身はコイツはこういうことをする奴だとハナから信用していなかったことはある。


NYタイムズの引用はこちら、見ての通り政府機関の信頼度である

※ 同じような信用おけない記事を書く記者にはForbes誌のDavid Axeがいる。

 ザルジニーは報道を受けて政治への野心はきっぱりと否定し、ゼレンスキーと同席した作戦会議の様子などを公開している。ゼレンスキーが鼻に付いてきたアメリカの新左翼は日本のそれと同じく自分たちだけが賢いと思いこんでおり、この将軍の類まれな聡明さが分からないようだ。彼はマクレランではない。

※ アメリカの記事を読んでいるとある時はウクライナ寄り、別の時はロシア寄りと一定していない。ウクライナが勝ちすぎるのは困るという意見が一定の説得力を持っているようだが、どうしてそうなるのかは良く分からない。

 KIISの調査ではゼレンスキーも含め、対象となった政治家は昨年より軒並み評価を下げているが、クリチコやレズニコフがとてもゼレンスキーに歯が立ちそうにないことは措くとして、一人評価を伸ばしているのはオリガルヒで篤志家のポロシェンコである。が、前大統領でもあり、これがゼレンスキーの対抗馬になる可能性はごく低い。支援国の同意も得られないだろう。

 ほか、ウクライナ国家公安庁の調査で、同国に撃ち込まれたミサイルに用いられた外国製コンポーネンツの75%が米国製の部品で、4%が日本製、3%がドイツ製であることが判明し、多くは誘導装置など高度な機能を有する部品であることがある。ミサイルの主要な機能にロシア製の部品はほとんど使われていないことがあり、キンジャールミサイルにしても高性能ドローンランセットにしても、対立している欧米や日本製の部品なしでは機能しないことがある。欧米は対ロ制裁の強化を公表しているが、実効性については相変わらず不確実である。

 

※ このザル制裁については、プーチンとその取り巻きが自身も言っているようなロシア的人物ではなく、旧ソ連邦の信奉者でもなく、大ロシアのレーベンスラウムの問題でもなく、本質的に彼らがウクライナを支援している支援国の寡占資本家で、ケイマン諸島に隠し財産を持ち、多くはダボス会議の常連である人々と同じ価値観、同じ倫理観、同じ優生思想の持ち主と考えるのがいちばん筋が通るように見える。プーチンとイーロン・マスク、柳井正といった人々の思想信条に本質的な違いはない。ただ、住んでいる国が違うだけである。