9月中旬はザポリージャとバフムトの双方で激しい戦いが行われたが、南部ではウクライナ部隊が第一防衛線を突破したことで一応の小休止を得、ロシア部隊は後退して最終防衛線であるトクマク周辺の防禦を固める様相になっている。ウクライナ軍は奪取したロボティネとベルボベの両小寒村で防備を固め、補給を行って第二防衛線以降のロシア要塞の攻略準備に掛かっている。

 バフムトではアンドリフカ、そして要地であるクリシブカをウクライナ軍が奪取したが、これは高地でロシア軍の補給路である州道513号線、国道3号線を撃ち下ろせる位置にあり、戦況はウクライナ有利に推移しているが圧倒するほどではない。ロシア軍は増援を送って南部の戦線にウクライナ部隊が送られないようにしているが、同様の狙いはウクライナ軍もロシア軍に対して持っている。

 ウクライナ軍参謀本部では先のマリャル次官ほかの更迭劇があり、報告がやや混乱している。耳慣れないOSUV(戦略遂行ユニット)はホールツィツャとタブリアのほか、スームィがあることが分かったが、このユニットは報告によりピウニッヒや北グループと書かれることがあり、名前と実際の担当地域に関連性はないが、現時点では先のブログは誤りでホールツィツャはバフムトを、タブリアはドネツク方面を担当するユニットである。スームィ(ほか)はリヴィヴなど西ウクライナを担当するユニットで、これも名前とは全く関係がない。

 最大の激戦区であるザポリージャ以南を担当する戦略ユニットは存在していないが、最近になって現れたこの軍単位がウクライナ軍の編成にどのような位置を占めるのかは良く分からず、ユニット司令官も顕出していないために、これは軍の編成とは別の国境警備隊その他などを含むような、何か違うもののように見えている。会社などで時々置かれる「〇〇委員会」が説明にはいちばん適当かもしれない。

 地上軍を後退させたロシアはここに来て航空攻撃を再開している。かなりの規模の攻撃を連日行っており、30日には久しぶりにロシアのジェット戦闘機1機が撃破されたが、珍しいことに残骸などの報告はなく、機種も不明であるために、これは長射程SAMによる戦果と思われる。攻撃は最前線ではなく、オリヒウ以北の前線向けの物資を集積していると思われる場所を中心に行われている。が、大集積地であるドニプロやバブログラード、動脈である国道4号線にはまるで届いていない。また、地上部隊と緊密な連携を取っている様子にも見えない。投弾している弾薬もJADAMのような精密兵器を使っている様子にはまるで見えないことがある。

※ 個人的にはロシアによる近日の攻撃は部隊ではなく政治レベルで齟齬のあるような歯切れの悪いものを感じている。海軍基地などロシア深奥部をピンポイントで攻撃するウクライナの戦術が意思決定に影響している可能性は否定できない。

※ 昨年にショッピングモールを倒壊させたような大型ミサイルによる被害は報告されていない。また、超高速で迎撃不可能なはずのイスカンデルミサイルも最近では名前すら聞かれないようになっている。

 連携の悪いことは航空攻撃の再開後、後退したロシア戦車が再び突出して撃破されていることでも分かる。空陸連携の戦術では航空機が上空から砲兵や戦車など重火器を叩き、それから戦車が進出して敵陣をなぎ倒し、続く歩兵でとどめを刺すものだが、ロシア機はそういう場所を攻撃しておらず、戦車が不相当なダメージを受けているように見えることがある。これに先のスロビキンの更迭がどの程度影響しているかは定かではない。なお、砲兵隊の損害率は相変わらず高い。

※ 大規模攻撃が行われていても、最前線に影響のあるような攻撃は行われていない。前線のウクライナ軍とロシア軍は以前の砲撃戦を再び行っている。

 ウクライナ軍の迎撃技術はドローンと巡航ミサイルについては撃墜率は2ヶ月前のほぼ倍に進化している。つまりより多くのミサイル、ドローンを送り込まなければ効果はないということであり、ドローンはともかくミサイルについては枯渇気味であることから、ロシア軍はドローンにますます頼ることになるが、ドローンの被撃墜率はミサイルとは比較にならないほど高い。最高指導部におけるドローンに対する高すぎる評価とこの兵器の生産が他の兵器の生産を圧迫し、軍事生産の重荷になる可能性は否定できない。

※ 開戦以来ウクライナ軍に撃墜されたロシア軍機は316機だが、ドローンは5千機以上が撃墜されている。

※ ISWはウクライナ軍がヘリ撃墜の能力を向上させたとしているが、ここ1ヶ月間でヘリコプターは1機も撃墜されておらず、ジェット機に至っては6月以降3機しか撃墜されていない。ウクライナ軍の防空能力が向上していることは確かであるが、それを見るのはヘリではなくドローンである。

 プリゴジンの死後は開店休業状態であるワグナー軍団についてはプーチン自らが生き残りの幹部と面談し、部隊の取りまとめを依頼したことが伝えられている。ワグナー部隊と思しき部隊はドネツク付近に出没しているようだが、この戦区は先に重病説が伝えられた二代目カディロフの担当戦域である。このチェチェン軍はロシア軍の中では例外的に残忍かつ弱い軍団だが、いつまで経っても数百人の守備隊しかいないマリンカやアウディウカを制圧できないことから(毒を盛られた理由と思われる)、まずはここから投入して様子を見ているのかもしれない。

※ カディロフの場合、戦争参加の動機もプリゴジンとは異なることが指摘されている。この人物の本質はビジネスマンで、彼のチェチェン軍もチェチェン人は全軍の数%しかおらず、残りはすべて傭兵であることが指摘されている。参戦と引き換えにプーチンから巨大な利権を引き出すことが彼の目的であり、首魁のカディロフも含めメディアには頻出するが、軍事的能力も戦意も高くないチェチェン軍はウクライナではTikTok軍と呼ばれている。