ウクライナで国防相のレズニコフが更迭されたが、これは一連の戦いに先が見えたことがあるだろう。支援する欧米諸国のロジスティクスがようやく機能し始め、ウクライナに戦争継続の保証がなされたことがある。
※ レズニコフは陽気な人物で、彼の主宰する国防省のツイッターXは悲惨な戦争にも関わらず陽性で、陰鬱なワグネル軍団のテレグラムとは対照的なムードがあった。戦場視察にも頻繁に訪れ、軍や国民の人気は高かったはずである。
欧米は昨年のロシアの侵略以降からウクライナ支援を表明していたが、軍事的に有用な援助は遅々として進まなかったことがある。ハリコフの戦いは完璧な包囲殲滅戦だったがウクライナ軍は弾薬不足で戦闘を中断した。ロシア軍を首都から追い払ったキエフの戦いでも弾薬不足が追撃不徹底に繋がった。
弾薬と兵器の不足はウクライナ軍の宿痾であり、それを解決するに当たってゼレンスキー政権は単純で直截的な方法を取った。それまで犯罪者として追及していたオリガルヒのパシンスキーに依頼して、欧米からの支援金を元手にブラック・マーケットでの兵器調達を依頼したのである。
昨年に検事総長のベネディクトワが解任されたが、重要な案件を任せたとはいえ、ゼレンスキー政権はオリガルヒへの捜査の手を緩めたわけではなかった。オリガルヒのメドベドチュクがウクライナ保安局に拘束されたこともあり、パシンスキーらは相場の2~3倍で兵器を買い漁ってウクライナ軍に提供した。
※ メドベドチュクがロシアに見限られたことにより、一蓮托生の雰囲気が彼らにあったことは否めない。これは捜査機関の追及を受けつつ戦争に協力するという彼らの奇妙なスタイルの動機にもなった。
彼らが買った兵器には粗悪品も少なくなかったが、それでも購入された兵器や弾薬はウクライナの防衛を大いに助け、昨年まではウクライナはこれらの兵器を用いて戦争していた。そしてパシンスキーらが売買代金の何割かを懐に入れていたことは想像に難くない。
オリガルヒと折衝していたレズニコフの更迭と前後してオリガルヒのコロモイスキーが逮捕されたが、これも戦争体制変更の一環と思われる。オリガルヒが購入した兵器は量はともかく質はロシア軍に優越するものではなく、価格も高価であった。また関係者の子弟には賄賂による兵役逃れが横行し、戦争を他所に海外で優雅な生活を送る者もいた。
※ ウクライナで度々起こった更迭劇はこの兵器調達とオリガルヒとの関係という視線で見ると筋の通るものになる。
ゼレンスキー自身はこのことを良く理解していたように思われる。彼がコロモイスキーの後援で制作した政治ドラマ「国民の僕(2016)」では、分裂に瀕したウクライナにおいて同様の場面が描かれている。
ドラマでは国家の分裂を防ぐため、古参政治家ユリの助言に従ってゴロボロジコはオリガルヒと手を結ぶが、ドラマではやがて失敗するものとして描かれている。オリガルヒとの同盟を彼は「麻薬」と表現している。効き目はあっても、いずれもっと強い薬が必要になる。対症療法であるが、抜本的解決ではない。
ザポリージャの戦いは分水嶺であった。ロボティネでの勝利はウクライナ軍が初めて手にした真っ当な戦争体制による勝利である。必要な弾薬を正価で購入して戦場に運び、必要な兵器は購入するか自国で生産するかし、国家の総力を挙げてロシアに立ち向かう総力戦(トータル・ウォー)がようやく形になったことがある。
何年後になるか分からないが、戦争が終わった後、我々は没落したロシアと共に、東欧の地域大国となったウクライナをその後何十年も意識することになるだろうことは、間違いないことのように見える。