メリトポリへの進軍の形が示されたことで、ウクライナの狙いがクリミア半島の孤立化と和平交渉にあることは分かったが、半島を巡っては以下のような状況になっている。
ウクライナが投入した水上監視・攻撃ドローンによりアゾフ海以南の黒海はロシア艦隊には危険な状態になっている。セバストポリの軍港は機雷で封鎖され、昨年からロシア海軍は拠点をノヴォロシスクに移している。
ロシア海軍の制海権がアゾフ海に縮減したことは、7月の穀物合意失効でウクライナが設定したオデッサ・イスタンブール間の「人道回廊」がロシアの脅迫にも関わらず機能していることで分かる。穀物貯蔵所はミサイル攻撃を受けたが、ロシア海軍は通商破壊戦に従事してはいない。
これまでを見ると嘘っぽいくらい垢抜けたウクライナ水中ドローン
最近、ウクライナは従来のFRPボート改造型ではなく、半潜水式の水中ドローンを開発した。潜水艦も攻撃することができ、探知可能性も従来の10分の1かそれ以下になることから、投入されれば従来は妨げるものなく行えたデルタⅢ級原子力潜水艦によるミサイル攻撃も封じられる可能性がある。
ウクライナがクリミア半島を手中に収めた場合、ロシアが戦争で勝利することは不可能になる。黒海経由の輸送はそれまでとは質量共に違う兵器やインフラの輸送を可能にし、これは戦争全体に影響が及ぶと同時に、戦後のウクライナにも決定的な影響を及ぼすものになる。オデッサ、セバストポリ、ベルジャンスク、マリウポリといった諸港諸都市やケルチ大橋が西側基準で再建再興され、西側の経済システムに組み込まれることになるからだ。
ロシア本土に対してはウクライナはロシア反政府勢力を使嗾してドローン攻撃を行っている。航空基地など軍事目標への攻撃以外はあまり感心しない行いであるが、戦いが激化するに連れ、ロシア一般市民の被害は拡大する可能性がある。
こんなふざけたもので攻撃されたら目も当てられない
先日ウクライナが投入した段ボール製ドローンはオーストラリアの会社が開発したもので、段ボールとして可搬でき、現地で組み立てて目標を攻撃するものだが、完全自律式で位置測定はGPSにより行われる。可搬性や航続力も一般ドローンより良く、5キロの爆弾を積んで攻撃できるが、これで反ロシア勢力はミグ機4機を破壊している。しかし軍事基地にはGPSジャマーがあり、以降の攻撃は困難になることが考えられる。
※ 日本でも自衛隊基地の周辺はGPSが使えないことがある。
スターリンクはイーロン・マスクの変節でロシア占領地・国内では使用することができず、GPSにも対抗策があることから、攻撃目標はより容易な民間施設、防衛の薄い官公庁にシフトする可能性がある。この場合、ロシア国民の犠牲者は現在より1ケタないし2ケタ増えることが考えられる。
ウクライナ政府は一定時点での講和を考えているが、ロシアと従属する集団安全機構加盟国、カザフスタンやキルギス、タジキスタンの離間を図ってはいない。特にカザフスタンは主要な密輸ルートであり、またベラルーシも戦争開始以降、指導者のルカシェンコが一定の存在感を誇示していることがある。この同盟に揺さぶりを掛ける方策は手つかずか不十分である。
※ 非ロシア人や移民、外国人は現在のロシア軍の主要な兵士供給源である。
スウェーデンやドイツ製の戦車や装甲車のライセンス生産については、ラインメタル社は装甲車や砲弾の製造工場の建設に着手している。軌道に乗るのは当面先だが、戦火の及んでいないウクライナ西部、リヴィウやイバノフランコフスクは後方支援の一大拠点になっている。
※ ウクライナは多文化国家である。ドネツクを中心とする東部はロシアの影響が強いが、リヴィウなど西部はかつてポーランド王国であったこともあり、カトリックで西側の影響が強い。加えてキーウはキエフ・ルーシから旧リトアニア大公国と異なる歴史があり、クリミアはクリミア・タタールのクリミア汗国である。