ウクライナ戦争では厭戦論が聞かれるようになっているが、これは全地球的に異常なこの暑さのせいもあるかもしれない。もっともウクライナの首都キーウは北緯50度で、これは札幌よりも北で我々が感じているほどには彼らは暑くない。
もっとも戦場が我々の地域ほどに暑ければ、現在のようなペースで戦いが続いていたかどうかには疑問の余地がある。戦線が膠着して少し涼しくなった所でクレムリンは総反撃を指令しているが、邪魔になるのが彼らが仕掛けた地雷である。地雷除去路も作らず、地図もなくデタラメに設置した大量の地雷は始末のしようがなく、今さらながら除去部隊を作って作業を始めている様子である。
プーチンは自爆ドローンの大量生産を指令したが、ウクライナはもう少し進んだ認識をこの兵器に対して持っている。ドローンによる体当たり戦法は元より弥縫的な作戦で、重い爆弾を積んだドローンは一度飛び立つと電池容量の制限から出撃は片道コッキリで帰還できないことがある。
我々はエアコンの効いた机上で彼らが撮影したドローン映像を視聴しているが、実はこれを撮るのは大変な作業である。ドローン操作兵は敵のすぐ間近まで進出し、塹壕や廃屋に隠れてドローンを操縦し、作戦が終了したらすぐに引き揚げる。その場にいては周囲にいる敵兵に目視で見つけられて殺されてしまうからだ。
※ 多くの場合ドローンの飛行距離は4~5キロである。操縦自体は軍用なので相当長距離でもできる。
夜間の移動ではヘッドライトさえ点けない。暗視ゴーグルがあるとはいえ、深夜に未舗装の道を時速80キロで疾走することには技術的な困難もある。付近で砲弾が炸裂したら運転手は一瞬にして視界を失い、車はもんどり打って路上から放り出される。車もハイラックスやミニバンで、我々が路上で見るものと大差ないものである。
ロシア製のドローンは性能仕様についてはウクライナ製と大差ないか、やや劣る程度である。ウクライナ戦争はドローン戦争とも呼ばれるが、戦い自体は以前の塹壕戦に兵器が一つ付け加えられただけにすぎず、ドローンは兵士を戦場のリスクから解放する魔法の兵器ではない。
自爆ドローンについては増産を指示したプーチンと異なり、ウクライナの技術者はこの戦法を浪費的と見做している。もう少し性能の良い爆弾を積み、攻撃して帰還できるようなユニットが望ましく、この一年で弾薬も様々な種類が開発されている。初期の鹵獲した迫撃砲弾や手榴弾の転用といったものではなく、限定的ながら装甲車も破壊できる弾薬も開発されている。
最近注目された舟艇型ドローンについては炸薬も数百キロと大量に積むことができ、概して非装甲の現代艦船相手なら一隻で中大破させうる威力を持っている。モーターボート型が報道されたが、真打ちは海上で見つけにくい半潜水型である。航続距離は約千キロで、これはルーマニア国境から黒海を廻り込んでロシア黒海艦隊の根拠地ノヴォロシスクを攻撃できる距離である。潜水艦まで攻撃できればロシアの黒海での制海権は消滅するだろう。
※ ロシア護衛艦はドローンの接近を迎え撃つことのできる艦砲や銃座を備えているが、潜水艦にそういう装備は普通はないことがある。接敵したら40ノットに増速し、50m潜水して追尾できるだけでもかなりの脅威になる。
長距離型のドローンはモスクワ攻撃にも用いられたが、これは低速の巡航ミサイルというべきもので、性能は本家ミサイルに遠く及ばず、数も少なくモスクワ市民向けのテロ攻撃にしか使い道がないようである。私としては戦略的に意味がないから止めた方が良いと思うが、ウクライナの政治家の考えは違うらしい。
※ むしろ士気高揚の策と見るべきで、軍事的効果は絶無に近いものである。
そんな使い方よりは、もう少し地味な暗殺ドローンを使い、工作員をモスクワに潜入させてゾロトフやパトリシェフなどプーチン以外の取り巻きを爆殺した方が良い。プーチンよりは難易度が低いとはいえ、彼らにもそれなりの警護があるはずだが、難易度が高ければ国会議員などもっと格下の相手でも十分である。プーチンはスターリンではないし、ジューコフのように国民に人気のある将軍でもない。ブラック企業のようなロシアに揺さぶりを掛ける方法は色々ある。
※ ゲラシモフとショイグがいるが、連中は軍人なのでプーチン同様難易度は高いと思われる。