ビッグモーターの報道はここ数日は下火になっているが、これは同社が「広報対策部」を設置して世評対策するようになったことがある。人材のいない同社としては「対策部」とは名ばかりで、実際のところは損保ジャパンを初めとする出向者の集まりで、電通や博報堂の社員が入ったものだろう。
手際は良いようだが、広告収入を押さえて報道を監視するやり口はすでに何百回も行われたおなじみの手口である。なお、元財務官僚で自民党の金融調査会副会長の片山さつきは「性善説」に基づく現行法制では全容の解明は困難としていたが、このように頼まれもしないのにしゃしゃり出て、隠蔽工作を擁護する言質も使い古されたものである。あまりに多用されすぎて義憤すら起こらない。
損害保険協会(料率算出機構)は保険金の不正詐取に伴う料率の見直しを調査している。事故件数が減っているにも関わらず、自動車保険の料率はこの所上昇傾向にあった。20等級でも5%や10%の値上げは当たり前で、聞くと最近の自動ブレーキ搭載車の修理は以前より高額で、それが料率の上昇に繋がっているという話だが、昨年に損害保険会社が支払った保険金は1.7兆円で、うち物損は1.1兆円である。対物無制限は6千億円を占め、残りは任意保険である。なお、契約者が支払う保険料は4兆円で、事務処理手数料は58%にもなる。
公的団体が数兆円規模の膨大な金額に影響を及ぼすと表明したことは、詐取の金額は報道にある5千万円どころではない。こちらの見立てではおよそ300億円、ユーザー一人あたり200円ほどだが、請求された保険金額からどれが適当な修理で、どれが不正と見分けることは大変な作業である。それだけで莫大な経費が必要になる。私としては一部に不正があれば、その案件は全て不正と見做し、事務処理を簡略化することを提案したい。
※上記の記事では保険金の水増し額は平均3万9千円とあるが、預かったクルマにキズを付けたりゴルフボールで叩くような会社が正しい修理と不正な修理を帳簿を付けて逐一管理していたはずがない。していたらいたでもはや犯罪組織である。数字はデタラメで、この会社を巡る数字には矛盾したものが多いが、こういう記事をリークするあたり、会社にはまだ再建できると思っている阿呆がいるのだろうか。
※この会社ではいつものことだが、先の証拠隠滅(LINE)といい、この会社の上層部は刑事的にはむしろ不利なことしかしていない。上記調査も内容が本当なら(でたらめだが)、会社ぐるみで計画的に詐欺を働いた有力な証拠になる。これは詐欺行為を自白したに等しい。まともな人間が助言していたならありえない杜撰さである。
三井住友銀行を初めとするメインバンク各社は同社との取引停止を求めている。協議は今月半ばに行われるが、損害保険会社はすでに契約を解消しており、国交省は整備工場の資格剥奪を決めていることから、同社はどうやら先に提示した3(倒産)のコースに入ったようである。
しかし、埃を被った展示車が何百台も国道沿いの展示場に放置されている光景が何年も続くのは景観を損ねるだろう。たぶん年末くらいにセールスバンクの廉価市が開かれることになると思われる。タイヤ交換もできず、保険も扱えず、クレジットも組めない自動車販売店が存続できる可能性はない。
自動車オークションの大手にはオークネットがあるが、査定の煩雑さと中古車市場の値崩れを防ぐため、会員資格停止など何らかの措置を取ることが予想される。
従業員の再就職については、自動車評論家の国沢光宏氏は有能な社員も少なくないことから引く手あまたと書いているが、楽観的すぎるコメントである。報道されている手口を見るに、同社の履歴はスティグマであり、同社出身の社員を雇用することはハードルが高い。私としては従業員個々においても保険募集人資格の剥奪、整備士免許の失効などの措置が必要と考えている。
確かに不正を指示したのは上層部だが、喜々としてそれに従い、顧客にも保険制度にも損害を与えたのは実際に手を下した個々の従業員である。不正の防止に最善を尽くした形跡もなかったことから、彼らは経営者と同罪で、制裁を免れるべき道理も理由もないものと考える。
自民党の片山は保険会社が関与した整備料金設定が安すぎるとし、有望な若者を業界に引きつけるには見直しが急務と論点をすり替えていたが、賃金の一時的な向上などはその場しのぎの麻薬にすぎず、堕落した経営そのものに目を向けなければそんなものにはあまり意味がないことがある。「上司の命令だから」、「他でもやっているから」といった抗弁は二度と認めるべきではない。
「失われた30年」というが、少しづつでも変化はしている。例えばスマホは30年の初期には存在さえしていなかった。変化には良いものもあれば、悪いものもある。少子高齢化の影響が誰の目にも明らかになってきた今日、この事件をどのように処理するかで我が国の資本主義の行く末も占うことができる。ここで政治家と国民が、いつものように馴れ合いと誤魔化しで済ませたなら、暗夜小路はまだまだ続き、現在の日本人が生きている間には決して抜け出せないものになるだろう。