2.販売から見た会社の状況
会社自体はどうなのかというと、カーセンサーに掲載されている同社の在庫は2万4千台ほどで、うち1.2万台が軽自動車、1万台が2リットル以下の小型乗用車で、普通乗用車も3リットルまでで2千台だがほとんどがミニバンとSUVで、3リットル以上の乗用車やセダンはほとんど在庫していない。また、ハイエース、プロボックスやAD、キャリィやハイゼットといった商用車は軽自動車も含めほとんど在庫していない。
軽自動車はハイトワゴンが中心で、特にホンダのN-BOXとダイハツのタントは各々1千台以上で、N-BOXなどは2千台になんなんとする勢いである。
色は白と黒が全体の80%で、これは店舗を実地に見た印象とも一致するものである。特に白系は50%以上あり、平均より10%以上多いが、赤色などマイナー色の在庫は平均を下回っている。
ハイブリッドについては2千台と業界平均の40%を大きく下回っている。これは売れ筋商品のはずだが、ビッグモーターの在庫は質量共に貧弱である。代表的な車種でも一店舗に一台も在庫がない車種もある。EVに至っては日産リーフは13年も前に発売されているが在庫は一台もない。これは売れ筋中心という同社のポリシーに背馳している。
店舗の分布は首都圏を除けば西日本が中心で、おおよそ高速道路の敷設状況に沿ったものである。名古屋を含む中京はあまり大きくなく、九州の方が大きな市場になっている。発達した高速道路のない山陰や東北は少なく、高速道路と大都市圏が同社のビジネスの淵源になっていることが分かる。
総じて見ると在庫も立地も良くセグメンテーションされており、在庫は売れ筋しか置かないという姿勢が鮮明である。ただ、在庫については10年ほど前の市場戦略という感じもし、企業風土もこの10年間ほとんど進歩をしてこなかった(むしろ退化していた)のではなかったかと思わせる。
ハイブリッド対応の遅れなどは好例であり、これはメーカーで研修を受けた技術者が必要な自動車であるが、研修とはすなわち投資であり、社員を消耗品扱いする会社には望むべくもないものである。収益を板金に頼る経営も自動ブレーキの普及により事故自体が激減している今日では時代遅れである。
価格が特に安いということもない。むしろプライスリーダーとして販価は平均よりも高めであり、特にこの半導体不足の事情では積極的に吊り上げていた形跡さえある。また、購入に要する諸費用も車検費用もかなり高いことは指摘がある。
社員の質の低さから提案型の営業を行う余力に乏しく、従って組織的な市場開拓ができず、法人営業も弱いとなると、急激な拡大による固定費の圧迫から会社が早晩行き詰まることは詐欺事件がなくても明らかだったように見える。
在庫については質の問題もある。同社は非公開会社であることから個々の数字には不明瞭な点が多いが、8710自動車販売を買収した際に同社にあったオークション事業を分割譲渡しており、仕入れはオークションによるものではない。買い取りといっても現在の我が国の平均使用年数は14年で、状態の良い中古車がそう簡単に入手できるものでもない。疑わしい入手経路の自動車が多くあることが予想される。
先に挙げた板金部門の収益から推定すると、ビッグモーターには板金修理して店頭に並べるだけの修理台数は十分ある(9~10万台)ことがある。全車とは言わないが、かなりの台数があるはずで、それが事故車や水没車だった場合は購入後のトラブルは必ずあると考えたほうが良い。安ければ許せるのだが、先にも述べた通り、同社の中古車はむしろ割高である。色も白と黒しか選べない。