反攻作戦が始まって40日近くになるが、ロシア軍の防禦は強固でこの10日ほどは目立った前進は見られなくなっている。今回の作戦はウクライナ軍としては長期に渡る激しい戦闘が続いており、キエフやハリコフの例からするととっくに弾薬欠乏を来しているはずだが、それでも今までの戦いよりは相当多い備蓄をして臨んだ戦いでもある。

 ウクライナ軍の弾薬が尽きつつあることを見たアメリカ大統領はクラスター爆弾の供与を決定している。禁止条約に抵触する兵器の提供には支援国でも目ぼしい弾薬が底を付いてきたことがある。が、同爆弾はアメリカでも製造は10年前に終了しており、西側諸国でも反対の強い兵器の提供の裏側はもう少し観察する必要がある。

※ 一度に多数の小爆弾や地雷を撒き散らし、無差別に大量殺戮するこの兵器は現在ではナパーム弾同様の非人道的兵器とされている。が、ウクライナの場合は提供しても搭載する航空機がないはずで、今すぐ使用はできないことから、決定は他の政治的効果を期待したものと考えることができる。

 

※ クラスター弾には砲弾タイプもあるが、同様の懸念がある。

 

 地雷原の存在が反攻のペースを遅らせているとされるが、英国国防省ほかの分析でもロシアは「通常よりかなり多い」地雷を防御線周辺に埋設したとされる。地雷原は地雷敷設車が通行したり、設置した地雷を管理する都合上、地雷を埋設していない地雷除去路を各所に持つはずだが、今回は味方戦車が被爆する例が少なくなく、また、地雷原の存在を十分予期していたウクライナ軍の装甲部隊を手こずらせていることからして、手作業での埋設も少なくなく、少なくとも車両が通れる道幅の除去路は作られていない可能性がある。

※ 起爆した地雷の再埋設のペースも早いことが報告されている。ロシアは鉄壁の防禦をアッピールするために地雷敷設作業の様子をビデオ映像で公開していたが、これはOSINT向けのフェイクで、実際の敷設作業とは異なる可能性がある。


※ 設置が偏頗的にならないよう、広大な地域を数十メートルごとに区分したかなり緻密な埋設計画が立てられている可能性がある。おそらくGRUの仕事で、作業自体がロシア地上軍とは別組織であることが考えられる。この場合、地雷指揮官を除去することで要塞全体の防禦計画を破綻させることが考えられる。

 正面攻撃が思ったほどの効果を挙げられないことから、ウクライナ軍は装甲車による攻撃からHIMARSなどを活用したロシア砲兵隊の破砕に重点を置いている。そのため参謀報告では砲兵隊の損害率は時間が経つに連れ増大しているが、装甲兵員輸送車や輸送車両、特殊装備の損害率も並行して増大していることがある。これは砲撃の最中に守備兵が頻繁に移動していることを意味し、ザポリージャ戦区一つとっても守備領域が広大なことから、最重要拠点でも兵力が慢性的に不足していることが考えられる。

※軍事ブロガーの意見の一つに地雷原を集中砲撃して起爆させて突破路を拓くという案が提示されていたが、トクマク要塞一つとっても昔の203高地の何十倍も広大で明治時代の戦法である集中砲撃も地下道掘削も効果のないものになっている。

 一年以上も戦闘が続き、両軍とも多数の兵器を失ったが、スプートニク紙の分析を参考にするとロシア兵器は補充と生産における効率が西側兵器より劣る可能性がある。ロシア軍は大量砲撃による面制圧を得意とするが、迅速な射撃と大量の砲弾の投射を可能にするため、(スプートニク紙によれば)西側兵器よりも耐久性の要求が高く、兵器は重く頑丈に作られており、こういった兵器は製造に大量の資源を要し、価格も高いものになることがあることがある。

 これに対し米国のM777はロシアのムスタBの約半分の重さで、砲撃能力は同程度だが(スプートニク紙によると連続砲撃には耐えられず、耐久性も劣るとされている)、製造はより平易に廉価に製造できる可能性がある。概して機械製品は軽量な方が製造コストが安い傾向がある。

※ 他の西側の長距離砲であるFH70やTRF1はムスタBより重いが、これらは自走用のエンジンを積んでいることがあり、砲自体はM777と同レベルの砲である。


 ロシアが兵器生産に問題を抱えていることはT52など旧式戦車を備蓄場から引き出して戦線に投入していることや、性能的には西側戦車を凌駕するはずのアルマータ戦車をいつまでも実戦投入できないことにも現れているが、その欠陥は設計に起因する内在的なものである可能性があり、この戦争がもう少し続くならば、これは時間との競争であるが、より効率的な兵器生産を確立した側が最終的な勝利を手にすることになるだろう。