「はま寿司」で他の客が注文した寿司に勝手にわさびを乗せる動画が出回ったことをきっかけに、「スシロー」では若い男性が未使用の湯呑みや醤油ボトルを舐め回す、寿司に唾液をこすりつける、回転する皿から1カンだけ取って食べるなどの動画がSNS上で拡散。回転寿司店での迷惑動画が“ブーム”のような様相を呈している。
こういう迷惑行為を行う者は以前から一定数はいた。私が子供の頃に実見したのは神棚のお札を叩くとか、位牌を足で踏むとか、アルバイト先でのつまみ食いくらいだったが、当時と異なり可視化されているのが困ったところである。
内容も過激化しており、上記のようなものは家庭の問題とか小さい範囲で注意すれば収まるくらいだが、回転寿司店やうどん店は店舗であり、これは業務妨害罪や器物損壊罪を構成する犯罪だし、また金銭を払って喫食するという性質から契約上の義務違反も問える内容だろう。ほか、不法行為もある。
問題だと思うのは、どのケースでも店舗側の損害が補償しうる限度を越えると思われることである。事件の象徴となったスシローの株価下落は168億円ともいわれ、以前にバイトテロで被害を受けたそば店は倒産してしまった。加害者に賠償させることは当然として、この加害の不均衡は歪みを生む。このようなことが繰り返されれば、現在のようなスタイルの飲食店は衰退せざるを得ないだろう。
今のところ冷凍餃子店での被害は報告されていないが、これはカメラでしっかり監視している上、無人といっても実際は有人(裏に補充要員がいる)店舗であることが多いからだろう。
これを事業者と加害者との間の問題として解決できないことは明らかに見えるが、報道を見ていて気になるのは、十分な負担能力があり、しかも犯罪行為に加功している存在が論説から全くのスルー、無視されていることである。察しの良い人は分かる通り、それはyoutubeやTikTokなどSNS運営会社である。
オレオレ詐欺の場合は救済法が整備され、詐欺被害に遭った被害者については預金を全額補償する制度があり、そのために金融機関は注意喚起を行い、行員がATMでの不審な引き落としに目を光らせている。預金保険機構を介するとはいえ、被害を野放しにしたら分担金も増額することから、各行は詐欺の阻止に必死である。ビデオアップロードが可能なSNSについても、同様の制度を整備する必要があるのではないか。
そういう点、加害者を告発し、民事賠償も含む一見「強硬な」対応を宣明しているスシローほか被害企業も真の意味では適切な対応をしているとはいえない。彼らが本当にビジネスを続けたいのなら、動画を不特定多数に閲覧させたSNS会社をこそ訴えるべきで、最高裁まで争って判例を作るべきである。一社でやる必要はなく、複数の会社で集団訴訟、任意的訴訟担当で上訴すれば、数年置きに起こるこの種事件の連鎖を断ち切れると思うのだが、どうだろうか。
(追記)
事件の最中、つい先日にかっぱ寿司で昼食を摂ったが、最近はあまり行かなかったこともあり、いつの間にか小皿が廃止されていたと同時に閑散とした店内が気になった。レーンはもちろん回っておらず、回転寿司に限らず、この種全国展開の飲食店チェーンについては私は以前から批判的だが、事件の影響の大きさを伺わせた。キッチンもロボ化した、寿司というより何か別の食べ物を出されるような、いくら勤めても店員のスキルにも寄与しない、この種省力化金儲けマシーンについては事件は不本意にしろ、むしろ衰退した方が良いのではと内心では思っているが、被害分担の構図に不公平な点もあることも、また見て取れることである。
(了)