「怪しさ満載あちゃの髪留め」


そういえば、最近おかしいと思っていたのだ。

急にフードをかぶり始め、

テンションはダダ下がり、

ぼそぼそと喋り、何事にもあまり興味を示さない。

前は、そんなやつではなかったはずだ。


ある日、忍華白銀は普段通り、何も考えることなく、

姫オリ専用施設の廊下を歩いていた。


歩いている、というよりは、

どこぞのアニメのように、

天井を歩き、シャンデリアに飛び乗り、

姿を消しつつ移動していたが。


そこで、ふと紫の頭が目に入る。

持ち前の視力の良さで、しっかりとそれが姫音あちゃであることがわかった。


はて、ここ最近、紫の髪を見ていなかったな。

ずっと黒いパーカーを何処でもかぶっていたから。


白銀は頭を働かせるため、

シャンデリアに飛び乗り、そのままぶら下がった。

ぐらぐらとシャンデリアが揺れるたびに、

白銀の黒髪もゆらゆら揺れる。

あちゃは、高いところにある黒髪には気づいていないようだ。

(まあ、忍びがこんなことで気づかれちゃ困るけど、ネー☆)


そういや、ここ最近、あちゃの性格がガラリと変わったきがする。

正反対・・・、とは行かなくても、

テンションだったり、好みだったり・・・、

言動だったり・・・。

姫オリ界ではよくあることだ、とスルーしていたままで、

気づいたらこれで定着していたが。


考えるのと同時に、紫色の頭をじっと見つめていると、

きらりと光るものが見えた。

チート視力の持ち主がそれを見逃す訳もなく、

さらに目を凝らしてみた。


ソファに座り込み、紅茶の入ったティーカップを傾け、

(俺様の予測ではキャンディ☆)

キラキラ光る薄い本を堂々と読んでいるあちゃの耳の後ろ辺りに、

黒い猫の顔をかたどった様な髪留めがついていた。


いつもはフードをかぶっているため、全く見えない場所。

そんなところに、目立ちたがり屋のあちゃが、

それはそれは好みそうな黒猫のピンをつけている。

いつもの調子なら、

「見てみてー! 可愛いだろー、いいだろー」とかなんとか言ってそうだ。


最終的には忍びの勘(笑)で、白銀はそろりとその髪留めに手を伸ばした。

怪しい、と思ったのだ。

何も特にないのならまた戻せばいいだけの話。

それくらい成せる技量はある。

そう判断した白銀は凄まじいスピードで紫の髪から黒猫のピンを抜き取った。

もちろん、風一つ立たなかったせいで、

髪の毛は少しも動いていない。


特に変化はない。

「・・・。 ・・・!?!?!?!?///」

かのように思えた。


あちゃが紅茶を啜りながら見ていた

キラキラした薄い本をすごい勢いで閉じたのだ。

そのときのあちゃの顔は耳元まで真っ赤だった。


いやはや、これはおかしい。

思ったとおりだ、さすが忍びの勘(笑)。とでも言っておこう。


「な、なななな、ななな・・・。」

耳どころか首まで赤くなり、

もう手元まで赤いんじゃないかというほど顔を赤くしたあちゃは口をパクパクとさせている。

足を内股でもじもじとさせ、

この前までの仏頂面とは大違いだ。


白銀は自分の手に残る黒猫のピンを見た。

シャンデリアの光が反射し、光るのが少し不気味だ。

これは面白い、もしかしたら。

と、そこらへんを通りかかった、何の罪もない、

欠伸をしている古龍琥珀の髪を少量とり、ねじってピンで留めた。

それはそれは、女子力のある手つきで。



織姫流弧は暇だった。

先ほどまで、数学のワークと格闘していたが、

今さっき、それも終わった。


テレビの前に座っている、コントローラーもある、カセットもある。

ゲームをすればいいのだけれど、どうもそういう気分にもなれない。

これは昼寝するか・・・?昼寝して、夜オンゲログインして・・・。

とか思ってるとき、

コンコンとノック音が聞こえた。


「・・・なにー?」

「流弧、お茶でもしないか?疲れてるかと、甘いもの持ってきた」

「・・・え、あ、ああ・・・・、うん」

声は、琥珀のものだった。


そっと扉を開け、琥珀が入ってくる。

お茶をこぼさないようにそろりそろりと歩きながら、

そこらに転がってるコントローラーやゲーム機にカセットのパッケージやら、

何がなんだかわからないコンセント類に、漫画本を綺麗に避け、

流弧の元へ歩く。


流弧の肌がゾッと鳥肌を立てた。

「琥珀ん! どうかした?! 罰ゲーム!? また姫さんとなんかしたの!?」

「・・・・は?」

琥珀は、きょとんと流弧を見つめる。

また流弧の肌がぞわぞわっと鳥肌を立てる。


「このお茶、流弧好きだったな、って思ったんだが。あ、お菓子、もっと持ってきたほうがよかったか?」

「いやいい、そこに置け!! じゃない・・・、琥珀んって、そんなお茶とか入れるタイプだっけ・・・。気、使ってくれるようなタイプだっけえ・・・。そんな歩き方してたっけぇえ・・・・。これが蒼羅さんならまだしも・・・」

「流弧はいつも頑張ってるからな。俺は何ができるかと考えたんだ。結局、お茶入れることぐらいしか今は思いつかなかったけれど・・・」

「あああああ、もう黙れ!! わかった!! 白銀さんだ!! あ、それか苦無くん!! いや、お七ちゃん!! いや、黒金くん!! ・・・はありえないか。 とりあえず、琥珀んに化けてでもいるんでしょ!?」

流弧はビシッと人差し指をまだきょとんとしている琥珀に向ける。


「俺、何をどう頑張っても琥珀なんだが・・・」

「あー、もうっ! よし、わかった、琥珀んしか答えられない質問をしてやろう」

流弧は口の端をにっと上げる。

琥珀は余裕そうな笑顔を浮かべた。


「なんでも聞け。なんでも答えられる」

「大きく出たね。後で後悔するよ・・・。 僕が幼稚園年長、琥珀んが幼稚園年中の時の話だけど、卒園式のときに、琥珀んが大泣きしちゃって」

「あー、で、危ないって言われたのに猛スピードで階段降りて流弧に駆け寄ろうとしたら見事に転んでそのまま流弧のファーストキッスをうば」

「まて、まて、まて、」

なぜ知っている?と言わんばかりに流弧の目が大きく見開かれた。

質問する前に、琥珀に先に答えられてしまった。

ということ、はだ。

目の前にいる彼は、間違いなく琥珀なのだろう。


「琥珀ん・・・、ごめん、本当に琥珀んだったんだ・・・」

「わかってくれたならいいさ。で、どうした? 悪い夢でも見てたか?」

頭を下げる流弧の頬に、

琥珀の手が伸ばされる。


「お前が・・・っ! お前がそんなイケメンオーラ漂わせてるから偽物だと思ったんだよ!!」

「なにが? 俺はいつもどおりだが?」

「何か悪いもの食べたんだね。だから拾い食いは気をつけろって・・・」

ぽん、と流弧が無駄に近い琥珀の肩を押し返す。

「拾い食い? そんな行儀の悪いことしねーよ」

デコを出してはいるが、いつものように全部上げるのでなく、

少し乱れたように毛が額にかかっている。

身長も、顔つきも何も変わっていないが、

こうもキリッとされると別人のように見える。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、夢だよね?」

「勉強疲れじゃないか?程々にな。 ほれ、お茶が冷めないうちに飲んでくれよ」

穏やかな笑顔で、琥珀はティーポットを手に持ち、ティーカップに赤みがかった液体を注いでいく。

ここからして信じられない。

なんでこれ偽物じゃないの。ねえ、どういうこと。


「やっぱり、今日の琥珀んおかしい・・・。琥珀んって呼ぶのにすらためらう・・・」

「俺はいつもどおりだ」

ほれ、と琥珀が入れてくれたお茶が流弧に差し出される。

金の縁取りがされた、高価そうなティーカップに、

美味しそうな紅茶の色、香り。


「やっぱりおかしい!! 君がこんな美味しそうにお茶淹れれるわけがない!!」

ティーカップを顔に近づけ、紅茶の湯気を顔に浴びながら流弧は必死に講義する。

「なんだ、そんなの知らなかっただけだろ。落ち着いて飲めよ」

「これが落ち着いていられると思う!? 思い返せばおかしなことばかり! ノックして部屋に入ってくる、疲れただろうと茶を持ってきたり気遣いする、そしてレモンパイ以外作れないのに、今日いきなり美味しそうな紅茶が入れれてる!! そしてなにより・・・」

半狂乱でまくし立て、流弧は勢いよく立ち上がり、びしぃっと琥珀の頭を指す。


「あのウザったいアホ毛が立ってない!!     あと抱きついてこない。


そんな指摘を受けた琥珀は、困ったように流弧を見る。

「俺、そんな人間だったか? ノックはマナーだろ、マナー」

ジョックのあまり、リアルに吐血しそうになった。


「その喋り方やめてよおおおお、ごふって血、吐くよおおおおお」

「んでだよ。もし体が受け付けないってんなら慣れさせてやろうか?」

立ち上がった流弧の腰をぐいっと引き寄せる腕がなんだか無駄に男らしく思える。

「お断りしますううううう、くっそイケメンがあああああああああ!!」

さらに流弧はヒステリックに叫び、暴れまわる。

琥珀の持ってきたパイを頬張りながら。


「きっと頭を打ったんだよ!! ほら、たんこぶできてないか見てあげる!!」

パニックに陥った流弧は琥珀の頭をぺしぺしと叩き、

髪をつかみぐしゃぐしゃにしていく。

「いってぇ、ちょ、落ち着けって・・・!」


カシャン


「ん? なにこれ、琥珀んの?」

はと平常心を取り戻した流弧が、床に落ちた髪飾りを拾う。

「ん? なにこれ、知らないよー! あちゃのじゃなーい? とりあえず俺、こんな可愛いのつけないし!! あ、けど流弧にもらったなら毎日付けちゃうvv」

流弧の手でぐっちゃぐちゃにされた頭を撫でながら、琥珀は髪飾りを受け取り、まじまじと見る。

いきなりいつもの調子に戻った琥珀を目を点にして見つめる。

アホ毛もびゅんびゅんと元気に揺れている。

はっ、と黒猫モチーフの髪飾りを流弧は睨みつけた。


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つかれたよぱとらっしゅ

なんだかとってもねむいんだ