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時代小説、藤沢周平著「橋ものがたり」、時代は江戸時代なんですが、現代小説かと思うくらい現代の世相を表現しているように思います。
文吉は、ここのところ目が出ない。どこで聞きつけてくるのか、あちこちの賭場に出入りをしている。
それほどばく才がるわけでは無いので、勝つときよりも負けてる方が多い。
勝っても、酒代と飯代を払えば手元にはびた銭が数枚残るだけである。
着る物も着古して穴の開いているような、とても上等とは呼べない代物をはおっている。
酒のせいか顔色はどす黒く、賭場通いで日に焼けてない白い肌とあいまって、縞模様のように見える。
頬はやせこけて、無精ひげも伸び放題、眼だけがぎょろぎょろと異様な鋭さで光っている。
懐には、護身用と称して刃物を飲み込んでいる。
年寄りなどの手間仕事をこなしては幾ばくかの銭が入ると、いそいそとまた賭場通いがはじまる。
今日は賭場でいつに無くいい目が出て、少々まとまった銭が入り懐が暖かい。
今日は酒を早めに切り上げて、女でも抱いてみるかと思いながら、そろそろ明かりの消えかかる裏店を、目当ての飯屋に歩いていた。
見ると、同じような賭場帰りの連中が2、3人前を歩いている。
その中の一人に、文吉は見覚えが会った。
よーし、今日こそは決着をつけてやる。文吉は懐に利き腕を忍ばせると、刃物の柄を握ると、鯉口を切った。
悟られない様に足音を忍ばせて早足で近づき、目指す男の腕をめがけてふんわりと舞い降りた。
どうやら、男は気が付いてないようだった。
文吉は刃物をゆっくりと腕に差し込んだが、それでもまだ男は気がつかない。
と、不意に全身に言いようの無い強烈な痛を覚えた、とてつもない大きな一枚岩に押し潰されるような間隔である。
「やろう、こんなに血を吸っていやがったぜ。おー痒い。」
これが、やぶ蚊の文吉の最後であった。