チェギョンのデッサンは一時間ほどで終わり、シンが衣装を脱いで一緒に東宮殿に帰るころにはあたりは薄暗くなっていた。
「おそくなっちゃったね。ごめんね、もうお暇するから、、、、、、」
チェギョンは東宮殿で自分の荷物を取ったら、帰ろうと思っていた。
「急ぐのか?」
シンが、慌てて聞くと
「ううん、うちはみんな帰りが遅いから、帰ってもまだ一人だよ。でも、シン君はこの後も予定があるのでしょう?」
「僕の予定は今日は午前中で終わってる。
急がないなら、一緒に食事を摂っていって行ってくれないか?客人が来た時くらい、人と食事がしたい」
「え!!いつも一人なの?」
「あぁ、そうだよ」
「、、、、、、ずっと?、、、、、」
「あぁ、ここに住むようになった5歳からはな」
「!!!」
チェギョンは言葉に詰まった。
そして、シンの住むこの宮と言う世界が遠くに感じた。
だが、それよりもシンが今求める、一緒に食事をする相手として自分を選んでくれたことに答えたい気持ちが勝った。
「では、ご馳走になります」
はっきりとチェギョンがそう返事をするとと、シンはコン内官に命じて、チェギョンと共に食事を摂ることを伝えたのだった。
シンは、東宮殿に住まうようになってから、初めて、本当に初めて食事が楽しいと感じていた。
そして、何を食べても同じように感じていた味が、今までに無く美味しいと思えたのだった。
食事が終わって、シンはコーヒーを、チェギョンは紅茶を飲むためにパビリオンに置かれたソファに移動した。
シンは思い切って聞いてみた。
「チェギョン、今度はいつ来れる?」
「う~ん、、、土曜日かな?平日は実技以外の教科の課題もあるでしょう?、、、、、私、あまり頭良くないから、、、、、、課題が出ると時間がかかるの、、、、、、、」
チェギョンは少し恥ずかしそうにそう言って肩をすくめた。
「コン内官、僕の今度の土曜日の予定はどうなってる?」
「はい殿下。来週も今週と同様に午前中に施設の慰問が予定されております。宮にお帰りになる時間も本日と大差は無いものと思われます」
「わかった。では、次の土曜日もチェギョンを呼ぶのでそのつもりで、、、、」
「かしこまりました」
シンはチェギョンに向き直り、
「では来週はチェギョンがよければもう少し早めに来て、色を入れたらどうだ?」
「ううん、、、、、シン君がいない時に勝手に来れないわ。また今日と同じ時間くらいの来させてもらっても良いかな?」
「そうか、、、、、わかった。ではまた時間は連絡するよ。そのかわりと言ってはなんだが、宮に来たときは一緒に食事を摂ってくれないか?」
「え?、、、、いいの?」
「あぁ、、、、今日、とても楽しかったし、食事も美味しく感じた。また、一緒に食べたい」
「、、、、、うん、、、、、、わかった、、、、」
チェギョンの返事を聞いて、シンがあまりにも嬉しそうにするものだから、チェギョンはかえって悲しくなってしまった。
シンがいつもどんな風に食事を摂っているのか、、、、どんな気持ちで居るのか、、、、、5歳の時からのシンの姿が目に浮かぶようで、何ともいえない気持ちになっていたのだ。
そして、今日見た朝服姿のシン、、、、、、それはシンの立場では決して着る事のない装束だ。
それを自分の為に来てくれたことにも感謝したが、それよりもその歴史を継承していくシンの立場を垣間見て、シンとの大きな距離を感じてしまったチェギョンは、自分の胸の中の小さな灯りをどうすればよいのか図りかねていた。