シルバー・ウィークお楽しみいただけましたでしょうか?
(中には、怒涛の9連休中の方もいらっしゃるかもしれませんが…)
で、本日は「冷凍シリーズ」第2弾! お待たせいたしました!
(待ってないって!)
突然ですが、皆さんは過冷却(かれいきゃく)って言葉をご存知ですか?
言葉はご存じなくても、実際にテレビなどで見たことのある方はいらっしゃるかもしれませんね。
(夏休みの自由研究で取り上げられることも多いですし)
こんな感じです。
一見、普通の液体が、注ぎ始めるとシャーベット状に凍っていく…
何故
これは、この水が「過冷却」状態になっているからなのです。
「過冷却」とは、本当なら凍るはずの温度にも関わらず、凍らないでいる状態のこと。 例えば、水なら0度以下になっているのに、凍っていないで液体のままの状態でいることです。
そして、その水(過冷却水)は、上のビデオのように、ちょっとした振動や刺激で、あっという間に凍り始めるのです。
そして、この「過冷却」の状態をうまく使うと、なんと、お刺身のような生鮮食品の鮮度を落とさずに冷凍出来てしまうのです。
通常、冷凍食品を作るには、素材に-40℃~-50℃の冷風を吹きかけます。 冷風を素材に直接吹きかけると、当然のことながら表面から凍り始めるのですが、この時、表面にできる氷の膜がバリアとなって冷風をさえぎり、素材内部の凍結を阻害するのです。
結果的に、全体が凍結するまでに時間がかかる。その間に、素材内部のまだ凍っていない部分の水分が、表面に出来た氷膜に吸い上げられ、素材の細胞から水分がどんどん抜けていく。
やがて素材の細胞膜が破壊され、解凍時に細胞内の水分がうま味成分といっしょに流れ出てしまうんですねぇ(いわゆるドリップ)。 ここが、生鮮食品の冷凍の難しいところ!
(前回ご紹介した「うどん」に細胞膜はないですから、旨み成分が流れ出るといった問題はないのでしょうねぇ)
まぁ、早い話が、内部まで凍らせるのに時間がかかってしまうので、美味しさが水分とともに表面に出ちゃうって話。
これを防ぐには、「瞬間的に素材の内部まで凍らせてしまう」、本当の意味での「瞬間冷凍」が必要なのですが、外から冷風を吹きかけるやり方では、どうしても内部が凍るまでに時間がかかってしまう。
そこで登場するのが「過冷却」。
素材を過冷却状態にすると、凍結点以下に温度が下がっているのに凍っていない状態をつくることができます。この状態では凍っていないので、氷の膜も出来ていない。当然、水分も吸い取られずに、細胞の膜も破壊されません。
この状態の素材に、刺激を加えると一瞬にしてすべての細胞が、そのままの状態で凍ってしまうのです。 まさに「瞬間冷凍」!
(写真の南極怪獣ペギラの冷凍光線はマイナス130度なので、瞬間冷凍が可能かもしれません… あ、うそです。)
では、どうやって素材を過冷却状態にするのか?
この技術を開発した株式会社ABI(http://www.abi-net.co.jp/)の説明によると、なんと電磁波で素材の水分子を微細に振動させながら、冷やしていくのだそうです。
分子の運動が止まってしまうと凍ってしまうので、凍結点以下になるまで水の分子に微細な振動を与え続けるのですね。(あまり分子の振動を激しくすると逆に発熱する(電子レンジの原理ですね)ので、さじ加減が難しい…)
ちなみに、ABIはこの冷凍システムのことをCAS(Cells Alive System:細胞が生きているシステム)と呼んでおり、これは第34回の発明大賞 日刊工業新聞社賞を受賞しています。
ABIの社長である和田哲男さんは、この発明に取り組んだキッカケをこう語ります。
今、日本の一次産業は、平均年俸が160万円という
絶望的な状態です。
そういう中で、私どもは、限界集落や離島においても、
冷凍技術により今までの距離というハンデをなくすこと
によって、若い人たちのIターン、Uターンを促す提案を
全国で展開しています。
うーん、こういった志は応援したくなりますね。
以前、「ガイアの夜明け」でも紹介されていたので、ご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、このCAS冷凍は、すでに三菱電機の冷蔵庫に搭載され『切れちゃう冷凍』と称して商品化されています。
細胞を壊さないこの冷凍技術は、単に冷凍食品にとどまらず、たとえば臓器移植などにも将来とても有効になるかもしれませんね。
なかなか、深いフリージング(冷凍)の世界。
ちなみに、過冷却水は条件さえ揃えば、わりと簡単に作れます。 トライしてみるのも、面白いかもしれませんよ。
(注いだ水が一瞬で氷に!?)