読んでみました。「国境の南、太陽の西」。

どうでしょう、評価の分かれる本でしょうね。
なにか特別な存在のものを出してみたりせずに、ストレートに一人の人間の人生のエピソードを丁寧につづっていく、村上春樹にしては直球な作品な感じ。

私はとても好きです。
ラストあたりは、ちょっと安っぽい自分探しの話っぽくなっているのは事実。それをもって、つまらん、と評する事はアリだと思う。でもね、私は久しぶりに響いたよ。

僕は二十歳のころに、世界とは何で、自分は何者で、そしてどこへ行くのかという問いを自分に向けることをやめた。何故か、ぷっつりと。
それまで、私の睡眠と心の落ち着きを乱し続けてきた不安の波は、津波の前の砂浜のように、不自然なまでにどこかへ引いてしまっていた。
なにをきっかけにしたのか「よくわからない」という言葉が夜露のようにゆっくりと体に降りてきて、そのまま僕の体を包み込んでいまい、すっかり僕は気楽になっていた。

が、

私は思い出してしまいました。
何を自分は戸惑っていたのか。そうですね、悩んでいたわけではない。戸惑っていたんだな。
まったく違うのに、同じ言葉で表現されてしまう2つの枠組みを抱え続けながら、どこかで失っていかなければならないこと。その焦燥と戸惑いの中にしか、幸せはやってこないこと。


私は、なにかが分かってしまったような気がした。
語るべき言葉を、思い出したよ。