子供の頃、僕はとても病弱でした。
今でこそ元気で日焼けなどしていますが、子供のころは気管支炎などをすぐに患い、いつも幼稚園や小学校を休んでは寝込んでいました。
することもなく、ただ床に伏している子供の楽しみは4つでした。
一つは、天井の木目を見ながら、あの模様は虎に見えるだとか、あそこにはピエロがいるなどと想像すること。
二つは、そっと目を閉じて、外から聞こえてくる色々な音を聞きながら、なんとなく自分が世界の中心にいるようなフワフワした浮遊感を楽しむこと。
三つは、カセットテープを聴くこと。
「日本昔話」「SL機関車-蒸気の記録」「交響曲第5番-運命 カール・ベーム指揮、ウィーンフィル演奏」
この3つが大好きでした。
「日本昔話」は、むかしテレビでやっていたやつです。最近は人の生活盗み見てばかりの家政婦が婆さん役だった、あれです。
「SL機関車-蒸気の記録」は、SLの走る音や、駅に停車中の色々なアナウンスや雑音などが克明に記録されたものです。思えば僕の生まれた年には、まだ地方ではSLが現役で走っていたんですよね。今もそのテープは持っていますが、擦り切れてまともに聞こえません。でも宝物。
「交響曲第5番-運命 カール・ベーム指揮、ウィーンフィル演奏」は、読んで字のごとく。なんともませたガキで、幼稚園児の頃からオーケストラやジャズ、果ては民謡や三味線など、とても幼児の趣味とは思えないような音楽が大好きでした。ベートーベンの「運命」の、第一楽章から第四楽章までの主旋律を空で口ずさめる幼稚園児も不気味かもしれません・・・
ちなみに、今でもこの録音がオーケストラの最高傑作と勝手に思っています。
そして四つ。
父親の買ってきてくれた、谷内六郎の画集を見ること。
文庫サイズの小さな画集でしたが、全部で3冊買ってくれました。
谷内六郎って、知ってますか?
一番わかりやすい説明は、むかしの週刊新潮の表紙の絵を描いていた人、ということでしょうか。81年に急性心不全で亡くなりました。この人の絵は、もう本当に好きで、今でも大事に大事に持っています。
それは、見たこともない昭和という時代へのノスタルジーなのかもしれません。人間はとても不思議な生き物で、自分が直接見たこともない昔の風景に、なぜかノスタルジーを感じるのですね。
でも谷内六郎の絵に惹かれたのは、もっと違う理由のように思えます。
うまく言えませんが、夏の光に揺れながら白む空気であったり、雪の日の夜中に響く乾いた下駄の音であったり、積み重なった落ち葉を踏みしめる不思議な柔らかさであったり、春の陽に匂う土の香りであったり、夜の水銀灯の冷たい明るさであったり、なにかそういう肌に触れるような世界の感触を、まるで童謡のような例え話として見せてくれる。そんな感じでしょうか、彼の絵の魅力は。
谷内六郎が亡くなって、もうすぐ25年です。
ヤカンの口から出てくる機関車も、木枯らしにのる小人も、もう僕には見えません。
それでも、彼の絵を見ると、なぜか夜中に散歩をしたくなります。
追伸
この千歳台小学校は、僕が去年まで住んでいた家のすぐそばでした。自分の愛した息子に、この絵は谷内六郎という人が書いたんだよ、と教えてあげられなかったことが、今でも悔やまれます。
↓
http://www.vesta.dti.ne.jp/~totetote/newpage3-3.html
今でこそ元気で日焼けなどしていますが、子供のころは気管支炎などをすぐに患い、いつも幼稚園や小学校を休んでは寝込んでいました。
することもなく、ただ床に伏している子供の楽しみは4つでした。
一つは、天井の木目を見ながら、あの模様は虎に見えるだとか、あそこにはピエロがいるなどと想像すること。
二つは、そっと目を閉じて、外から聞こえてくる色々な音を聞きながら、なんとなく自分が世界の中心にいるようなフワフワした浮遊感を楽しむこと。
三つは、カセットテープを聴くこと。
「日本昔話」「SL機関車-蒸気の記録」「交響曲第5番-運命 カール・ベーム指揮、ウィーンフィル演奏」
この3つが大好きでした。
「日本昔話」は、むかしテレビでやっていたやつです。最近は人の生活盗み見てばかりの家政婦が婆さん役だった、あれです。
「SL機関車-蒸気の記録」は、SLの走る音や、駅に停車中の色々なアナウンスや雑音などが克明に記録されたものです。思えば僕の生まれた年には、まだ地方ではSLが現役で走っていたんですよね。今もそのテープは持っていますが、擦り切れてまともに聞こえません。でも宝物。
「交響曲第5番-運命 カール・ベーム指揮、ウィーンフィル演奏」は、読んで字のごとく。なんともませたガキで、幼稚園児の頃からオーケストラやジャズ、果ては民謡や三味線など、とても幼児の趣味とは思えないような音楽が大好きでした。ベートーベンの「運命」の、第一楽章から第四楽章までの主旋律を空で口ずさめる幼稚園児も不気味かもしれません・・・
ちなみに、今でもこの録音がオーケストラの最高傑作と勝手に思っています。
そして四つ。
父親の買ってきてくれた、谷内六郎の画集を見ること。
文庫サイズの小さな画集でしたが、全部で3冊買ってくれました。
谷内六郎って、知ってますか?
一番わかりやすい説明は、むかしの週刊新潮の表紙の絵を描いていた人、ということでしょうか。81年に急性心不全で亡くなりました。この人の絵は、もう本当に好きで、今でも大事に大事に持っています。
それは、見たこともない昭和という時代へのノスタルジーなのかもしれません。人間はとても不思議な生き物で、自分が直接見たこともない昔の風景に、なぜかノスタルジーを感じるのですね。
でも谷内六郎の絵に惹かれたのは、もっと違う理由のように思えます。
うまく言えませんが、夏の光に揺れながら白む空気であったり、雪の日の夜中に響く乾いた下駄の音であったり、積み重なった落ち葉を踏みしめる不思議な柔らかさであったり、春の陽に匂う土の香りであったり、夜の水銀灯の冷たい明るさであったり、なにかそういう肌に触れるような世界の感触を、まるで童謡のような例え話として見せてくれる。そんな感じでしょうか、彼の絵の魅力は。
谷内六郎が亡くなって、もうすぐ25年です。
ヤカンの口から出てくる機関車も、木枯らしにのる小人も、もう僕には見えません。
それでも、彼の絵を見ると、なぜか夜中に散歩をしたくなります。
追伸
この千歳台小学校は、僕が去年まで住んでいた家のすぐそばでした。自分の愛した息子に、この絵は谷内六郎という人が書いたんだよ、と教えてあげられなかったことが、今でも悔やまれます。
↓
http://www.vesta.dti.ne.jp/~totetote/newpage3-3.html