1993年にはドイツ映画でも描かれたスターリングラードの市街戦、ロシア側からの話というのはなかなか貴重なんじゃないかと思います。

どうも原作とまでは言えないようですが、ソ連の作家グロスマンの「人生と運命」という本を下敷きにしているようです。

冒頭が東日本大震災の救援部隊のロシア人の話から始まって、彼の5人の「父親」の話につなげる、なかなかうまい語り口だなと思いました。

どうみても圧倒的に不利な戦況のスターリングラードのアパートで孤塁を守ったロシアの寄せ集め軍隊の物語。中心になるのはそのアパートの最後の生き残りの少女カーチャ。極限状態でもはや逃げることすらあきらめたような最底辺の暮らしを送るソ連の市民たちを挟んで、モラルの低下したドイツ軍と武器弾薬も尽き欠けて絶体絶命のソ連軍がにらみ合いをつづける。

そのなかで、少女をなんとか守り通そうとする奇妙な絆が年齢も境遇もさまざまな男たちの間でできあがる、というのがドラマの核になっています。

そしてもう一つの綾が、ドイツ軍のはぐれ者将校カーンで、かれは自分の死んだ妻によく似たソ連人の女性マーシャに入れあげる。初めは志の高い軍人だったはずの自分が、戦線の膠着とともに堕落しつつあることに自覚があるが、それをソ連のせいだと思いこもうとするあたり、人間の弱さをうまく表しているなと思いました。

誰も絶対的に正しくはないし、味方のはずの人間まで見境なく狙撃したりする軽率さや弱さを見せつつ、「自由のために」譲れない一線を守り抜こうとする人々を描いています。途中でドイツ軍は市民を無差別に列車に乗せて「処分」しようとするとか、ヴォルガ川を越えたらその先はインドだ、と思っているとか、そんな雑な考え方だったのかなぁ、と疑問に思えるところはありますが、でもいろいろと面白い視点を提供してくれる一本でした。

主役というかリーダー格のグロモフ大尉が、少し小柄で威厳がないので、え、この人が主役?となかなか馴染めなかったのですが、それに慣れるとすっと入っていけました。カーチャ役のマリヤ・スモルニコワというひと、それほど出演作がないのですが、なんか既視感がありました。「メンタリスト」のヴェガ捜査官に似てるからですかね。