ディックの原作を読んでいないのですが、監視社会と麻薬の恐怖について、本人の実体験も交えてかなり皮肉も入った、でもユーモアもある作品だったと思います。
安定した生活を捨てて覆面麻薬捜査官という仕事を選んだボブ(暗号名フレッド)。捜査官としては正体のわからない迷彩スーツを着込んでいて、誰も正体は知らないけれど、ボブとしては麻薬“物質D”の密売ルートを探るべく二人のジャンキーと同居生活を送っているけれども、立場上やむなく使用したドラッグが神経に影響を与えだしている。
そんなある時期、フレッドとして、自分たちのアパートを監視する任務が与えられる。組織はアパートに住んでいるのがフレッド(ボブ)本人だとは知らないらしい。
やがて、友人の一人バリスは警察にボブのことを密告しにきたり、騒がしくなってくる。
最終的にボブは完全に神経をやられ、リハビリ用の施設「ニュー・パス」に送られることに。その時点でフレッドの上司ハンクの正体が、ボブの彼女ドナだったことも明らかに。バリスが黒幕だというのは知った上で、物質Dの配給元がニュー・パス自身だった、ということを証明するためにボブを送り込むのが目的だったのだと。
最後のどんでん返しも含めて、真実はどこにあるのか、常にさまよいながら多層的な世界を眺める感覚、なかなかよかったです。フレッドが、自分達の家をたくさんの隠しカメラで撮影した映像を飛ばし見でチェックする部分が、この映画の象徴している監視社会の姿なのだろうな、と思いました。
ロバート・ダウニーJr.、ウッディ・ハレルソン、ウィノナ・ライダーなどの芸達者が、アニメ化された姿とはいえ、それぞれのキャラクターをしっかり掴んだ演技をしていて、声も含めて非常に楽しめました。
メイキングを見るとディックが実際にCIAやFBIに監視されていた、というのも事実のようだし、二人の娘さんがどんな映画になるのか興味津々で撮影現場にもやってきた様子、俳優たちのアプローチなども紹介されていてたいへん興味深かったです。
