「テラビシアにかける橋」「パンズ・ラビリンス」と並ぶファンタジーの傑作といってもいいんじゃないでしょうか。
冒頭から不穏な始まり方なので何が始まるかと思ってしまうのですが、ジュゼッペ少年に恋してラブレターを手渡そうとする少女ルナ。森の中で追っかけっこしたり、野犬に追われて一緒に逃げたり。そして少年の原付に乗って牧場に。少年が乗馬の練習をしたところで初キス。しかしその後彼は忽然と姿を消してしまう。
ルナの両親、特に母親は厳格なスイス人で、ジュゼッペの家と付き合うのをよしとしない。とにかく受験、勉強のことばかりを言う教育ママ。そして学校を休んだジュゼッペのことを学校でもあまり話題にしない。
実はジュゼッペ、父親が元マフィアのメンバーで、内幕を証言するとしていたために、彼を黙らせたいマフィアの連中が人質にさらっていたのだった。
ジュゼッペを見つけたいルナの行動は過激になり、髪を青く染め、ジュゼッペの席に座った同級生を殴り、いろいろと問題行動を。理解してくれるのは親友のロレダーナだけ。
さらわれたジュゼッペの方はルナにもらった手紙だけを心のよすがにしているが、次第に衰弱。
時はたち、少し落ち着きを取り戻し高校進学も決まったルナだが、父親と釣りに行った時に幻影を見て、水の中に入っていったのがきっかけでしばらく精神病院に。
環境を変えようと引っ越す前の晩、ルナはこっそりと家を抜け出し、わずかな手がかりを頼りに一人ジュゼッペを探しに行く。
結果的に、ルナはジュゼッペの居所まで突き止め、二人で逃げ出したかに思われたのだけどそれは幻影で、ジュゼッペは絞殺され、遺体は酸で溶かされ、湖に捨てられていたのだった。
ロレダーナはルナの合図を知り、自殺を止めに自宅に。一命をとりとめたルナ。やがて時が傷を癒やし、新しい友人たちと海を眺めるのだった。
もう序盤から「ツイン・ピークス」か、と言わんばかりの何かが起きる予兆を感じさせ、誰かがルナを見ている、という感じがバリバリするので胸が痛いのですが、思春期ならではの親への反発といちずな恋心にきゅんきゅんしてしまいます。最後の家出ではビートルズの「シーズ・リービング・ホーム」を彷彿とさせるシーンがあり、気持ち的にはなんとかジュゼッペ助かってほしいと思いつつ、幽体離脱して自分を眺めるシーンとかがあって、もうこれはダメなんだろうな、と思ってしまうという。残虐シーンとかはほとんどないのですが、現実だけは突きつけられるという、ちょっと「パンズ・ラビリンス」のラストの絶望感に似たものを感じました。
それでも、彼の捜索を手伝ってくれたロレダーノの彼氏とその友達と、最後に若者らしいシーンがあるのは、生命の回復力への希望があるからなんでしょうね。
ルナ役のユリア・イェドリコフスカ、まだ幼さの残る中、意志の強さと聡明さを兼ね備えた適役でしたね。ただ美しいだけのキャストだと、これは成功しなかったでしょう。