ジョン・ヴォイトは、もっぱら悪役としてしか知らなかったので、この半ばヒーロー的な描かれ方はなかなか新鮮でした。
ハンブルクに暮らすフリーの記者ピーター・ミラーは、自殺をした老人の手記をひょんなことから手に入れる。老人はリガ収容所の生き残りで、妻を収容所で亡くしたあと、収容所の所長だったロシュマン告発を唯一の生きがいとしていた。
その手記には、収容所のユダヤ人たちの心を、肉体を殺すことに嗜虐的な喜びを抱いていたロシュマンの様子が克明に記されていた。
特ダネになると感じたピーターはのめり込み、その過程でSSの生き残りが地下組織「オデッサ」を作っていることもわかり、大会に潜入したことで組織に目をつけられることに。だが諦めずサイモン・ヴィーゼンタールにも相談してロシュマンの現在を探る。一方でピーターの存在はイスラエルの組織(モサド?)の関心を引き、彼を別人に仕立ててオデッサへの侵入を図る。
徹底した訓練の後、面接をクリアしてピーターは偽ID作りにバイエルンのクラウスの許へ。しかしミュンヘンから愛人ジギにかけた電話がきっかけで偽装はばれそうに。偽ID工場に呼び出されたピーターは暗殺者と決闘の末返り討ちにして、クラウスが隠していた「オデッサ・ファイル」を入手。それはナチス所属時代の本名と、現在の偽名がすべて記された資料だった。
ファイル本体はジギに託し、ピーターはロシュマンの許へ。屋敷に忍び込み1対1で対決。そこで明かしたのは、戦時中にロシュマンが射殺したナチスの将校はピーターの父親だったという事実。自らを正当化し、非を認めないロシュマンはピーターを撃とうとして射殺され、ピーターは不起訴に。
その結果、エジプトがイスラエルに撃ち込もうとしていたミサイルは飛ばなかった、というオチ。
冒頭にイスラエルの話があって、これがどう関係あるのかな、とずっと不思議に思っていたらラストでちょろりと明かすだけで終わったのはびっくりしました。
新聞記者がただ特ダネを追っているにしては、こだわり方がおかしいし、スパイまがいのことをいつの間にか始めるし、スパイとしての潜入が成功する前に正体ばれてるし、で、最近の政治スリラーの手回しのよさと誰も信じられない展開になれてしまっているので、車でつけられていることに気づかないユルさはだいぶ時代を感じさせますね。
原作小説はフィクションで、ロシュマンは実在するけれど1977年までは死んでないようだし、いろいろと事実を元に脚色しているみたいですが、でも1963年なんてまだ戦後間もない時代だったんだな、と思ってしまいました。「ネオナチ」が自分の周りで話題になり始めたのは80年代だったように思いますが、実はドイツでも、ナチスの話をことさらに持ち出すのが憚られた時代があったり、オデッサの連中のように、現在の繁栄を築いたのはナチスだ、とうそぶくような歴史修正主義もそれなりにあったんだな、と思います。日本にはそのムーブメントが今来ている、といってもいいのかもしれませんがやはり怖い話です。
ジギ役のメアリー・タムは、後年イギリスの大ヒットSFテレビドラマ「ドクター・フー」でトム・ベイカーの相棒役ロマーナをつとめた人ですね。
音楽をアンドリュー・ロイド・ウェッパーが書いているんですが、けっこうシンセを多用していて、今の作風とは全然違いますね。