2018年、スウェーデン映画。いやあ、これは傑作でした。

タイトルでてっきりUFOものと思い込んでましたがそこは大外れ。スウェーデンの片田舎の町を舞台に、謎の襲撃を受ける町の人々を描いています。

主人公は引っ込み思案の青年アレックス。父親ビヨルンは元々は国防軍か国境警備隊かなにかにいたのですが、何かの理由でそこを除隊して、変電所に勤めています。飛行機を飛ばすのが趣味で、国境を観察しては国に報告をいれて迷惑がられているちょっと偏執狂的なところのある人。自分の今の境遇が不満でことあるごとに母親とアレックスに当たり散らします。アレックスはそんな父親が嫌でたまらない。

あるクリスマス、父親はアレックスがほしがっていたギターを手作りでプレゼントしようとしていたのに母親がへそくりで買ってプレゼントしたことに激怒、とりあげて破壊してしまいました。それがきっかけで母親は家出、アレックスもついに父親に反抗して追うように家出。

それまでいい雰囲気だった幼なじみのアンナはストックホルムに引っ越し。一緒にバンドを組もうと言っていたのに、最後の一言が言い出せずに、書いた曲も渡せずに気まずい別れ。

そして時は流れ10年後。アレックスはその頃の鬱屈を晴らすかのように音楽で成功し、ステージで喝采を受ける日々。だが成功とは裏腹に、あのアンナと弾いたころのピアノの音色を求めている。そんなある日、スウェーデン国内では謎のテロが相次ぎ、母親が犠牲に。最後にかかってきた電話にも出そびれて後悔をかかえるアレックス。葬式でふるさとの町に。そこで偶然アンナと再会。

父親ビヨルンは、変電所で変わり者扱いされながらも持ち前の陰謀論を展開。ある日怪しい男に殴り倒されますます一人で奮闘。

だが父親の直感は実は正しかった。スウェーデン議会は爆破され、町では車が暴走、パニックが広がります。アンナの家に止めてもらったアレックス。彼女が結婚して子どももいると知らされ、怒りに任せて飛び出すと、そこで交通事故に巻き込まれます。しかもそれが立て続けに起こり、何かがおかしいと。

実は、雨に混じって認知症のような症状を引き起こす神経毒が撒かれていたのだと。それで交通事故とか、出動した軍のヘリが墜落とか。

この後はアレックスがアンナと避難したり、逃げ込んだトンネルで父親と再会したりといろいろ忙しく。最終的には国防軍の残存した勢力と父親の死力を尽くした航空戦で町の人々は助かるというエンディング。

ラストではどうもロシアの関与が匂わされてますが、そのへんは普段からのスウェーデンのロシアに対する不信感のようなものに裏付けられてるんでしょうかね。

ストーリーを通じて絶妙なのがアレックスと父親ビョルン、そしてアンナと母親の大臣の距離感。父親を憎みながらも、衝動的な怒りを抑えられず、愛情をうまく表現できないところはそっくりに育ったアレックス。そしてアンナへの愛ゆえに、彼女の夫が生きていることを伝えそびれて罪の意識にさいなまれます。

追手のヘリコプターを逃れて自宅に戻ったアレックスは父親の工房で、かつて父親が自分のために作ってくれたギターを発見。父親の愛情の深さを初めて知ったのでした。

ラストシーン、雨に打たれて教会に帰ったところでアンナに真相を告白。渡そうとして渡せなかった曲をピアノで弾き始めるけれども…。

「ブレードランナー」のロイ・バティの「思い出は消えてゆく。雨の中の涙のように」を思わせる、美しい終わり方だと思いました。

銃撃シーンとかは、けっこうリアルだったり、カーアクションも派手だったりしたのですが、いわゆるハリウッド的な快感志向とは違ってつねに抑制が効いた表現です。

エンドクレジットでずいぶんたくさんのKickstarterのクレジットが流れたので、クラウドファンディングの力も大したものだなぁ、と思いました。