Yahoo!ムービーにも載っていないマイナーなタイトルで、英語のウィキペディアページすらないのですが、IMDbには記載がありました。

原題はThe Mourningということで愛するものを失った哀しみを中心に描いたもの。

 

従軍した先で行方不明になって、死を宣告された男アーロンが、なぜか森の中で意識を回復。20年前の姿のまま、家族や友人の前に姿を表します。

言葉も話せなくなって、何を覚えているのかもわからないまま、家族と再会したり、認知症の父親に会ったり、今は結婚して子どももいる恋人と再会したりします。そのうちに、少し言葉を発するようになったり、でも再会した人々の中には戸惑いを覚える人々もいて…。

 

やがて彼の体調も少しおかしくなってきて、急に出血して倒れたり、急に元気になったり。彼のことを嗅ぎ回るUFO信者のグループも追いかけ回すようになったりして、最後は発見された林に戻ったところで唐突に終わり。

 

プロットとしては少し説明不足で、説得力はないのですが、この作品の強みはそこではなく、人々の心情に着目したところでしょう。ここには戦争で愛するものと分かれ、死別し、その後を乗り越えるまでの感情の動きが刻み込まれています。人を亡くした後にその人の幻影を街の雑踏で見つけたりする、というルーシーの言葉には胸を衝かれるし、戦友デイヴィッドが戦地から還っても誰にも語れなかった自分だけの悔悟、今の妻ルーシーの元恋人が帰って来たときの夫ジェームズのリアクションなど、ここには本物の人間のリアクションがある、と感じました。

 

唯一、おもちゃみたいな作り物のキャラクターが、UFO信者の3人なのですが、この人工的なとってつけた、粋がってる感じは、狙ってのことなのでしょうかね。

 

序盤から、なにか第三者の目で見つめられている、というのは伝わったのですが、それが森とどう関係あるのか、姪のエリンだけに見えた存在とはなんだったのか、もう一つピンと来ませんでした。木の精霊なのかな、とか思ったりしたんだけど、木は動きませんしね。

 

陰謀派のスーツ女のドミニク・スウェインは「ロリータ」でデビューした女優さんのようですが、他にはあまりメジャー作品はなさそうです。アーロン役マイケル・ルネ・ウォルトンも、ウィキペディアのページがないですが、監督/プロデューサー/作曲家としても活躍しているようです。一番の鍵になったのは戦友デイヴィッド役ルイス・マンディロアで、フレディ・マーキュリーか、ジャン・レノか、ルトガー・ハウアーか、と思わせる印象的な瞳と鼻の形をしていて、保安官という職業と、戦争のトラウマをぬぐいきれずにいるジレンマを深みをもって表現していたと思います。昔の恋人ルーシー役サリー・マクドナルドも、やっと日常に平和を見いだせたと思ったのに、アーロンを思った日々を捨て去れない、微妙な心情をうまく表現していると思います。後は、ルーシーの娘リンジーが、すごく大切なキャラクターで、彼女がアーロンとルーシーを結果的に出会わせていたり、父親との和解に一役かっていて、なかなかいい味を出していました。

 

20年前のフラッシュバックシーンで、20年前の若さはちょっと表現できていなかったかな、というのは残念ポイントですが、いやいやどうして、なかなかの佳作だと思いましたよ。