ベトナム戦争とイラク戦争という違いはあれ、退役軍人のトラウマというのが時代に落とす影というのはいつもこういうものなのでしょう。
少女売春から少女たちを暴力的手段で救い出すのを生業にするジョー。老いた母親との二人暮らし。
そこに新しい仕事が。議員の娘がどうやら組織的売春につかまったらしい。相手を痛めつけて取り返してほしいと。タレ込みのあった場所で待ち伏せして、見事に娘ニーナを取り返し、待ち合わせに父親が現れるのを待っていると、その父親が自殺したというニュースが。そしてジョーたちは襲われニーナは再びさらわれてしまいます。
そして、ハンドラーも残虐に拷問の末ころされ、連絡係も親子ともに惨殺。さてはと家に駆けつけると老母もすでに睡眠中に射殺されていたと。
怒りに任せて一人を射殺、残る一人から情報を聞き出してから、ジョーは母親を湖に弔い、自分も自殺しようとしますが、さらわれたニーナのビジョンを見て思いなおします。
そして、彼女をさらった知事を別宅に襲います。ところが寝室にたどり着くと寝室には喉を掻っ切られた知事の死体が。ニーナがすでに自分で仕事を済ませていたのでした。
二人で寄ったダイナーでジョーはもう行き場もなく、自殺するビジョンを。しかしニーナは「行きましょう、いい天気よ」。
お互いにDVや性暴力にさらされ、傷つきあったもの同士の共感と、若さの持つ再生力、未来を奪うことはできない、という前向きなメッセージを、女性監督リン・ラムジーが確固たる表現で描き出します。
リン・ラムジーという人の作品は、他には日本では「少年は残酷な弓を射る」ぐらいしか公開されていないみたいですが、光・音の使い方がとても自信に満ちていて、映像を意図的にぼやけさせたり、キリッと引き締めたり、自在のコントラストで、構図も決まっていますね。
ジョーの腕前については、ずいぶん荒っぽくて、それも少年時代の父親のDVに由来するものだ、というのが少しずつわかってきたりするのですが、話が始まった時点ですでにかなり疲労の蓄積がひどくて、見ていて哀れを催します。そして、老いた母との二人暮らしという関係性のリアリティーがぐいぐい来ます。
原題がYou were never really hereなのですが、「あなたは本当はここにはいなかった」。意味深ですね。終始自殺願望に悩まされるジョーに対しては、「ここで死のうと生きようと、世の中は大して気にしない。ならば開き直って生きまくれ!」というメッセージのようにも感じます。