タイトルからB級SFエンターテイメント、と期待して見ると裏切られるし、実際裏切られたけど、これは掘り出し物の傑作青春映画。

母を亡くして父親と二人暮らしのダリアスはシアトルで雑誌社のインターン。周囲に溶け込めず、空気が読めない彼女は居心地の悪さを感じる日々。そんな中、企画会議で先輩記者ジェフが提案した、新聞記事のタイムトラベラー募集の企画のアシスタントに志願したことから運命が変わっていきます。

最初はその企画を立てた先輩にも、昔の彼女の様子が知りたいという不純な動機があったり、その先輩の言動がことごとく下品でいらつく瞬間もあるのですが、応募の私書箱を張り込んで、広告主を探り当てたあたりから、ぐいぐい引き込まれます。この募集主ケネスは、本気なのか、正気なのか?

ダリアスのちょっとそっけなく人生を達観したような態度がかえってケネスを引きつけ、タイムトラベルに先立つさまざまな射撃のトレーニングや格闘術をまなんだり、タイムマシンの完成に必要なパーツの調達を手伝ったり。

過程で、ダリアスもケネスも、自分のタイムトラベルの目的を語り合ったり、自分が人生で今この時代にしっくりこない理由を話し合ううちに意気投合。

一方、ジェフの方も見た目、若いころよりもぽっちゃりした昔の彼女を見て幻滅して会うのをいったんはやめるのだけど、インターンのアーナウにさとされて会ってみると、歳のわりにすれてない、昔のままの素朴な彼女に新鮮さを感じてしまうと。

そうこうするうちに、シアトルの編集長が、書きかけの記事の中に出てきたケネスの昔の彼女が、話と違って生きている、と分かり、ダリアスの心に疑惑の影が。ケネスに問いただしているうちに、記者の正体もばれてしまい、ケネスは飛び出す。

慌てて追いかけるダリアスも追いついて決断、ボートに作られたタイムマシンを作動させると…。

実際のタイムトラベルはないのに、これだけでおなかいっぱいに満足してしまう作りに舌を巻いてしまいました。

テイストとしては、ちょっとハル・ハートレーを思い出す、奇妙な人々の間で流れる、その人だけの時間。それぞれが真剣なだけにおかしさが増すといういとおしさ。若い人がそれぞれに恋愛に踏み出せないためらいの気持ちと、ジェフのような中年にとっての恋愛の形、踏み出せる道、あきらめる道、など世代それぞれに親しみを感じる心の動きがあったのではと思います。

主役クラスにはそんなにスターはいなかったですが、ダリアス役オーブリー・プラザはフォックスの「レギオン」でもレギュラー出演していますね。出番の少ないシアトルの編集長が「24」のクロエ・オブライエン役で知られたメアリー・リン・ライスカブ。やり手編集長っぽい厳しさが効いてます。